2026年初以降、ベトナム税関は化学品の輸入に対し、「100%成分開示」を厳格に求める運用を進めています。これにより、ベトナムで事業を展開する多くの企業にとって、コンプライアンス対応の負担が大きくなっているほか、営業秘密の漏えいリスクも懸念されています。
3月19日、米国ASEANビジネス協議会(USABC)は、ベトナム税関総局に対して正式に文書を提出しました。同文書では、現在の執行要求が従来の「抜き取り検査」とは明らかに異なっており、企業が申告、通関および営業秘密の保護において大きな課題に直面していることが指摘されています。
その後、ベトナム税関総局は公式公文を発出し、各地方税関支局に対して、2026年1月1日以降の化学品輸入申告の実施状況およびその法的根拠について報告するよう求めました。これは、ベトナム税関が「100%成分開示」に関する執行状況を体系的に調査していることを示しています。
地域によって異なるベトナム税関の運用
現時点でのフィードバックを見る限り、ベトナム各地の税関における化学品輸入申告の運用基準は統一されていません。
ハイテクパーク税関では、CAS番号および成分情報を含む100%成分開示が厳格に求められています。規定どおりに成分情報を開示しない場合、現物検査やサンプリング分析など、より厳格な措置の対象となる可能性があります。
一方、第2地域税関支局およびその他の国境検査所の多くは、企業に100%成分開示を義務付ける新たな強制的申告指令は発出していないとしています。
ベトナム当局が規制を強化する背景
今回の税関監督の強化には、一定の法的・政策的根拠があります。現在の執行運用は、主に以下の法令および政策に基づいています。
まず、税関に関する基本法令です。ベトナム「税関法」第18条第2項および第26条第2項では、申告内容の正確性に関する責任が申告者にあることが明確にされています。また、「政令第08/2015/ND-CP号」第16条第2項および第3項では、商品の分類は、成分ならびに物理的・化学的特性に関する技術文書に基づいて行う必要があるとされています。
次に、化学品管理関連法令です。商工省が所管する「政令第24/2026/ND-CP号」、「政令第26/2026/ND-CP号」および「政令第28/2026/ND-CP号」では、条件付き化学品、特別管理化学品および麻薬前駆体化学品について、対象リスト、許可、資格要件および申告情報に関する明確な要求が定められています。
また、執行・確認メカニズムも重要です。税関総局の「決定第1921/QD-TCHQ号」は、税関職員に対し、追加情報の要求、現物検査またはサンプリングを実施する権限を付与しています。さらに、関連する公式公文では、特に麻薬前駆体などのセンシティブな物品について、正確な申告の重要性が繰り返し強調されています。
一方で、貿易円滑化の方向性も示されています。税関総局の「公式公文第3272/TCHQ-KDHQ号」では、物理的な介入を減らし、サンプリング分析の割合を引き下げる方針が示されています。つまり、ベトナムでは、規制強化と貿易円滑化を並行して進める政策姿勢が見られます。
企業が直面する実務上の課題
実務上、企業が完全な100%成分情報を提供することは容易ではありません。多くの場合、サプライヤーは営業秘密の保護を理由に、MSDSにすべての配合情報を記載していないためです。
ベトナム「化学品法」第26条第1項では営業秘密の保護が認められています。一方で、同条第2項および第3項では、必要に応じて、企業が主管当局に対して関連する機密情報を提供し、規制上の要求に対応することも求められています。
そのため企業は、難しい判断を迫られています。成分情報を開示しなければ通関できない可能性がある反面、開示すれば技術情報や配合ノウハウの漏えいリスクが生じるためです。

改善提案
低リスク貨物のホワイトリスト制度
こうした課題を踏まえ、第2地域税関支局は、規制の重点を麻薬前駆体などの重要物質に絞ることを提案しています。具体的には、税関総局が主導し、関連する専門機関および化学品管理部門と連携したうえで、税関データに基づく「低リスク貨物ホワイトリスト」を作成し、対応するCAS番号を付すという考え方です。
ホワイトリストに掲載された貨物については、企業は製品名およびCAS番号のみを申告すればよく、100%成分情報の提出は不要とすることが想定されています。
この方法は通関効率の向上に寄与する可能性があります。ただし、化学品は種類が非常に多く、製品更新も頻繁に行われるため、ホワイトリストだけですべてのケースを網羅することは困難です。そのため、企業の実務上のコンプライアンス負担が根本的に解消されるとは限りません。
第三者による情報申告ルート
さらに、ベトナム税関総局は、「第三者による情報申告ルート」の導入を検討することも考えられます。具体的には、ベトナム国家単一窓口(National Single Window)システムを活用し、サプライヤー向けの機密情報提出チャネルを構築する方法です。
この仕組みにより、海外製造者は製品の全成分情報をベトナム税関のバックエンドに直接提出できます。システム側で管理対象物質の有無を自動的に確認し、そのコンプライアンス結果のみを輸入者に通知します。一方、詳細な配合情報は輸入者には開示されません。
これにより、営業秘密の保護と税関監督上の要求を両立できる可能性があります。
地方税関への研修・ガイダンス強化
同時に、税関総局は商工省などの関係当局と連携し、地方税関部門に対する研修および実務ガイダンスを強化する必要があります。これにより、地域間での執行基準のばらつきを抑え、企業にとってより予見可能性の高いコンプライアンス環境を整備することが期待されます。
企業への提案
ベトナム税関による化学品規制が厳格化するなか、REACH24Hは、関連企業に対し、早期にサプライヤーとコミュニケーションを取り、十分な技術文書およびコンプライアンス証明資料を事前に準備することを推奨します。これにより、申告時に製品の適合性をより効果的に説明でき、通関上のリスクを低減できます。
また、ベトナム税関および関連主管当局が公表する最新の法令、公式公文、執行動向を継続的に確認することも重要です。企業はこれらの動向を踏まえ、申告戦略を適時に見直し、通関リスクを最小限に抑える必要があります。
