最近、厚生労働省、経済産業省および環境省は、「化審法における新規化学物質の違反事例集」を公表しました。本稿では、公式資料に掲載された6つの実際の事例を通じて、違反のポイントとコンプライアンス上の対応策を整理します。
同資料では、企業が化学物質を製造、輸入または管理する過程で発生した違反事例と、それぞれの防止策が紹介されています。
これらの問題は、必ずしも意図的な違反によって生じるものではありません。開発担当者による配合変更、購買担当者によるサプライヤー変更、工場間の数量情報の共有不足、担当者の退職後に必要な手続が引き継がれなかったことなど、日常業務の過程で発生するケースも少なくありません。
化審法上の判断プロセスを見直し、一般的なリスクを特定するとともに、実行可能な予防策を把握するためにご活用ください。
化審法への適合性を確認する際の基本事項
化学物質を輸入または製造する前に、まず化審法の適用対象に該当するかを確認し、化審法番号(MITI番号)の有無を確認する必要があります。そのうえで、対象物質が既存化学物質または新規化学物質のいずれに該当するかを判断します。既存化学物質の場合は、第一種特定化学物質、第二種特定化学物質、監視化学物質、優先評価化学物質または一般化学物質の該当性を確認します。
新規化学物質については、通常新規、少量新規化学物質、低生産量新規化学物質、中間物等、低懸念高分子化合物など、具体的な状況に応じて適用される手続を判断する必要があります。
化審法に基づく確認や届出を取得したからといって、その後のすべての製造・輸入行為が自動的に適法となるわけではありません。確認数量、物質組成、製造工程、使用者、用途などに変更がないかを継続的に確認し、変更手続、再申請またはその他のコンプライアンス上の確認が必要かを判断することが重要です。
6つの典型事例――違反はどのように発生したのか
事例1 ポリマーの既存化学物質の範囲を誤って判断し、長期間無届出製造
ある企業の製造部門は、あるポリマーを長年にわたり化審法上の既存化学物質であると判断していました。しかし、公示名称と一定程度類似していれば、構成モノマーの一部が欠けていたり、別のモノマーが加わっていたりしても既存化学物質の範囲に含まれると誤認していました。
その後の社内点検で、一部のポリマーが実際には新規化学物質に該当し、必要な手続を行わずに製造していたことが判明しました。
違反のポイント:構造の類似性や一部モノマーの共通性だけで、官報公示名称に対応する既存ポリマーの範囲に含まれると誤認した点です。
REACH24Hからの提案
官報公示名称に対応する構成モノマーと実際の組成範囲を確認し、疑問がある場合は、化学物質管理部門または専門の第三者機関に確認を依頼することが重要です。
事例2 自社内中間物(非分離中間体)に該当すると誤認
新規化学物質Aを全量社内で製品加工していた企業が、外販していないことだけを理由に自社内中間物に該当すると判断し、必要な手続を行っていませんでした。
自社内中間物に該当するかは、社内で使用されているかだけでなく、加工後に物質が化学的に変化しているかを確認する必要があります。物理的加工だけで最終製品中に同じ物質が残る場合と、化学反応により既存化学物質へ変換される場合では、判断が異なる可能性があります。
違反のポイント:社内で使用し製品に加工していることを、制度適用の十分条件と誤認した点です。
REACH24Hからの提案
実際の工程、物質の変化、最終製品の組成などを踏まえて適用可否を判断する必要があります。
事例3 製造部門が独断でレシピを変更し、新規化学物質が混入
製造部門の責任者交代後、品質管理部門に相談せず原料とレシピを変更した結果、変更後の原料に含まれる添加剤由来の新規化学物質が製品に持ち込まれる可能性を把握できていませんでした。
違反のポイント:従来の原料と製造条件を前提とした判断を、変更後もそのまま適用した点です。
REACH24Hからの提案
原料、添加剤、レシピまたは製造工程を変更する前に法規制評価を行い、変更後も従来の条件を満たすか確認してください。
事例4 複数工場の合計製造量が確認数量を超過
少量新規化学物質制度に基づき年間800 kgの確認を取得していた企業で、複数工場の製造量を一元管理していなかったため、全社の累計製造量が確認数量を超えていることを年末まで把握できませんでした。
違反のポイント:数量集計が分散し、企業全体の実績が確認数量を超過したことを適時に把握できなかった点です。
REACH24Hからの提案
確認数量を一元管理する台帳を整備し、関連工場・部門の実績を集約するとともに、社内アラートを設定することが重要です。
事例5 海外サプライヤーとの情報共有不足
海外メーカーが製造方法を変更した結果、従来の組成に含まれていなかった新規化学物質が製品に含まれていることが、SDSの再取得後に判明しました。また、別のケースでは、インボイスには1,000 kgと記載されていたものの、実際の入荷数量は1,100 kgでした。
不純物であっても、新規化学物質が成分として1%以上含まれる場合、必要な届出等の手続が求められる可能性があります。数量管理では書類上の記載ではなく、実際の輸入数量を基準とする必要があります。
違反のポイント:サプライヤーの製造方法・組成変更を把握せず、実際の入荷数量と書類記載数量の一致も確認していなかった点です。
REACH24Hからの提案
輸入前にSDSと法規制上の区分を再確認し、貨物到着後は実際の数量を確認してください。第一種特定化学物質および指定製品の輸入規制も、物質区分・用途・関税分類と照合して確認する必要があります。
事例6 吸収合併後に使用者変更の手続を行わなかった
中間物プロジェクトで確認を取得していた企業Bが企業Cに吸収合併された後も、設備と使用場所が変わっていないことを理由に、使用者変更の手続を行わないまま製造・使用を継続していました。
違反のポイント:使用場所と設備が同じであれば従来の確認が有効だと誤認した点です。
REACH24Hからの提案
会社合併、使用者変更または事業譲渡が発生した場合は、実際の作業内容に変更がなくても、変更手続の要否を速やかに確認してください。
なぜ企業は違反するのか――どのように防止すべきか
原因1 化審法の理解が不十分な状態で判断
対策:定期的な社内教育の実施
特定担当者の経験だけに依存せず、製造、研究開発、購買および輸入に関わる部門へ、法制度、社内判断ルールおよび典型的なリスクを定期的に説明することが重要です。
原因2 部門間や取引先との連携不足
対策:社内管理体制の構築
原料、レシピ、工程、サプライヤー、輸入数量、使用者または製造場所に変更が生じる場合は、関係部門が先に法規制上の影響を評価できる体制を整備します。
原因3 長期間の違反状態が見つからない体制
対策:定期的な監査
既存製品と過去の判断を定期的に見直し、実際の組成、製造方法、輸入数量、用途および使用者が従来の判断や確認条件に適合しているかを確認します。
化審法コンプライアンスは一度きりの届出や確認ではない
公式資料に示された違反事例から分かるように、企業のリスクは、最初の製造または輸入の前だけに発生するわけではありません。
企業は、正確な物質特定を基礎とし、法規制部門による審査を中核に据え、数量管理と変更管理によって支える社内管理体制を整備する必要があります。さらに、定期的な教育、情報の一元管理およびコンプライアンス監査を通じて、化審法違反のリスクを低減することが重要です。
化審法コンプライアンスの要点は、一度限りの届出や確認だけではありません。実際の製造・加工、輸入および使用の状況が、常に関連する法規制上の要件に適合していることを継続的に確保することが求められます。
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REACH24Hは、ENCS照会、新規化学物質の該当性判断、CSCL申告・適用除外ルート評価、試験計画、届出資料作成など、日本向け化学品コンプライアンスを支援します。
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