化粧品原料・実務ガイド
日本の化粧品原料メーカーが海外の化粧品メーカー、製造販売業者、OEM/ODM企業へ原料を供給する際、PCPCのINCI名とCAS番号の提示を求められることがあります。一方、日本市場で化粧品を製造販売する場合は、日本化粧品工業会が作成する「化粧品の成分表示名称」も確認する必要があります。
これらは同じ目的の情報ではありません。原料の構造、由来、製造工程および組成を整理し、既存の名称・番号が実際に供給する原料に適用できるかを確認したうえで、PCPCのINCI名取得、CAS番号の照会・申請、日本の表示名称作成の要否を判断します。
まず整理したい3つの識別情報
| 項目 | PCPCのINCI名 | 日本の化粧品の成分表示名称 | CAS登録番号(CAS RN) |
|---|---|---|---|
| 主な役割 | 化粧品原料を表す国際的な英語名称 | 日本の化粧品の全成分表示に用いる名称 | 化学物質を識別する番号 |
| 主な利用場面 | 海外取引先への原料資料、処方・表示名称の検討 | 日本市場向け製品の全成分表示 | SDS、技術資料、取引先確認、化学物質規制資料 |
| 関係する組織 | INCによる審査を経て、PCPCがwINCI等で公表 | 日本化粧品工業会 | CAS |
| 確認時の注意点 | 安全性、化粧品への使用可否、各市場での承認を示すものではない | 成分の安全性や配合可否を示すものではない | 化学物質規制上の登録・届出が完了したことを示すものではない |
INCI名と日本の表示名称を同じものとして扱わないことが重要です。日本化粧品工業会は、PCPCのINCI名を基に表示名称を作成していますが、表示名称は日本の化粧品の全成分表示のための名称です。PCPCのINCI名を取得しただけで、日本向け製品に使用する表示名称が自動的に決まるわけではありません。
日本企業がPCPCのINCI名を確認・申請する場面
日本企業がPCPCのINCI名を必要とする典型的な場面は、海外ブランドや海外のOEM/ODM企業へ原料を提案する場合です。原料仕様書、処方検討資料、成分表示に関する照会などで、国際的に共有される化粧品成分名称としてINCI名の提示を求められることがあります。
特に、植物エキス、発酵由来原料、ペプチド、細胞培養由来原料、ポリマーなどでは、商品名だけでは原料の同一性を十分に説明できない場合があります。既存のINCI名が見つかった場合も、原料の定義、由来、製造工程および組成が実際の原料と合致するかを確認する必要があります。
次のような場合は、PCPCのINCI名取得を検討する前に、既存記録の調査と照合を行います。
• 既存のINCI名が、原料の由来や製造工程を正確に表しているか不明な場合
• 類似する名称はあるものの、定義や適用範囲が一致しない場合
• 原料が商品名や社内名称のみで管理されている場合
• 新規の原料を海外の化粧品サプライチェーンへ供給する予定がある場合
既存のINCI名が原料を適切に表している場合、商品名や包装仕様を変更しただけで、新たなINCI名申請が必要になるわけではありません。
日本市場では「化粧品の成分表示名称」を確認する
日本で製造販売する化粧品の全成分表示では、日本化粧品工業会の「化粧品の成分表示名称リスト」等に基づく表示名称を確認します。原料メーカーは、製造販売業者やOEM/ODM企業が表示名称を選定できるよう、原料の由来、組成およびINCI名に関する正確な情報を提供することが求められます。
すでに表示名称リストに収載されており、その定義が対象原料に合致する場合は、原料メーカーが変更になったことや商品名が変わったことだけを理由に、新たな表示名称作成を申し込む必要はありません。
一方、適用できる表示名称が見つからない場合は、日本化粧品工業会への表示名称作成申込を検討します。同工業会は、2002年以降、PCPCのINCI名がすでに存在する原料、またはINCI名取得手続き中の原料を対象に、表示名称作成申込を受け付けています。そのため、日本市場と海外市場の両方を想定する原料では、PCPCのINCI名に関する資料と日本の表示名称対応を連動して進めることが実務的です。
CAS番号は何を確認するためのものか
CAS登録番号(CAS RN)は、CAS REGISTRYに収録される化学物質を識別するための番号です。SDS、技術資料、取引先のデューデリジェンス、化学物質規制に関する資料などでCAS番号の提示を求められることがあります。
INCI名とCAS番号の関係は、必ずしも一対一ではありません。一つのINCI名に複数のCAS番号が関連する場合や、一つのCAS番号に複数のINCI名が関連する場合があります。そのため、原料資料にINCI名とCAS番号が併記されていても、それだけで両方が供給原料に適用できるとは判断できません。
単一物質であれば、構造式、分子式、塩形、異性体などを確認します。植物由来原料、発酵由来原料などの複雑な原料では、由来、生物種、使用部位、製造工程、代表的な組成などを確認します。混合物の場合は、商品名ではなく、構成成分ごとに名称と番号を整理します。
どの手続きから始めるべきか
すべての原料に共通する固定の順序はありません。原料の性質、既存記録、販売先市場、取引先から求められている情報によって、確認の順序を決めます。
| 確認結果・事業場面 | 推奨する次の対応 |
|---|---|
| 海外供給を予定し、既存のINCI名とCAS番号が原料に一致する | 照合の根拠を保管し、対象市場の規制要件を確認する |
| INCI名は確認できるが、CAS番号が不明または適用に疑義がある | 既存のCAS記録を照会・照合し、必要に応じてCAS番号の申請を検討する |
| CAS番号は確認できるが、適用できるINCI名が見つからない | 既存のINCIモノグラフを確認し、必要に応じてPCPCのINCI名申請を検討する |
| 日本向けの表示名称が対象原料に適用できない | PCPCのINCI名の状況を確認し、日本の表示名称作成申込を検討する |
| 日本と海外の両方へ供給する | 一つの原料同定資料を基に、INCI名、CAS番号、日本の表示名称を整合的に確認する |
構造が明確な物質では、構造とCAS番号の確認がINCI名の検討を支えることがあります。植物由来、発酵由来などの複雑な原料では、由来、製造工程および組成に関する共通資料を先に整理し、INCI名とCAS番号の確認を並行して進める方法が適しています。
照合・申請前に準備したい資料
原料の種類や手続きにより必要資料は異なりますが、次の情報があると確認を始めやすくなります。
• 商品名、提案名称、既知のINCI名・CAS番号および関連資料
• 単一物質、複雑な組成の物質、混合物のいずれに当たるか
• 化学名、構造式、分子式、塩形、異性体に関する情報
• 植物名、使用部位、生物種など、由来を示す情報
• 製造工程、原料・反応物、抽出・発酵条件に関する情報
• 純度、不純物、溶媒、担体を含む組成情報
• 想定用途、販売先市場、取引先から求められている資料
検索で名称や番号が見つからなかったことだけを理由に、新規申請が必要と結論づけることはできません。既存記録の定義と対象原料を照合することが、不要な申請や取引先への不正確な回答を避ける出発点になります。
INCI名・表示名称・CAS番号だけで規制対応は完了しない
PCPCのINCI名、日本の表示名称、CAS番号は、いずれも原料の識別や情報共有に役立ちます。しかし、これらの取得または確認は、化粧品への使用可否、安全性、各国・地域の化粧品規制や化学物質規制への適合を保証するものではありません。
原料の同定後は、実際の用途、配合量、販売先市場、供給主体および適用される制限・届出要件を確認します。INCI名、表示名称、CAS番号の確認は、規制評価を進めるための基礎情報として位置づけることが重要です。
REACH24Hによる名称・番号確認の支援
REACH24Hは、化粧品原料メーカー、研究開発企業およびサプライヤーを対象に、原料情報の整理と、必要な名称・番号対応の検討を支援します。
• PCPCのINCI名:既存記録の調査、申請要否の判断、原料カテゴリーの確認、技術資料の整理、申請対応
• CAS番号:既存記録の照会・照合、物質同定情報の整理、CAS番号の申請対応
• 日本の表示名称:既存の表示名称リストとの照合、日本市場向けに必要な情報の整理、表示名称対応に関する相談
原料に適した確認ルートを整理しませんか。
原料規格書、組成情報、構造または由来に関する資料、製造工程、想定市場、取引先からの依頼内容をご共有ください。既存記録の確認から、PCPCのINCI名、CAS番号、日本の表示名称のどこから対応すべきかを整理します。
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