食品着色料は、食品色素とも呼ばれ、食品に色を付け、感官的性質を改善し、消費者の購買意欲を高めるために使用される食品添加物です。現代食品産業に欠かせない存在であり、飲料、ベーカリー、乳製品、スナック食品、肉製品など、あらゆる食品カテゴリーに応用されています。
由来や性質によって、食品着色料は大きく天然着色料と合成着色料の2種類に分類されます。天然着色料は、植物・動物由来のもの(ビートレッド、ウコン、β-カロテンなど)や、微生物由来のもの(紅麹色素など)があり、「天然由来」という特長から、健康志向の消費者ニーズに合致しています。一方、従来の抽出技術では、安定性の低さ、食品の風味への影響、生産能力の制約といった課題があります。これに対し、アルラレッドACやタートラジンなどの合成着色料は、化学合成によって製造され、鮮やかな色彩、高い着色力、低コスト、優れた安定性といったメリットがあります。
現在、世界各国で進む食品着色料の規制方針の転換、技術革新、市場ニーズの多様化・高度化により、食品着色料業界の構造は大きく変わりつつあります。同時に、食品関連企業には、これまで以上に高度なコンプライアンス対応が求められています。
そこでREACH24Hは、中国、米国、EUという世界の主要3市場における新規食品着色料の市場参入ルートを整理し、市場ごとに異なる規制要件への対応ポイントを解説します。
中国:食品添加物新品種申請
中国における食品着色料の規制は、「食品安全国家標準 食品添加物使用標準」(GB 2760)を中心に構成されています。国家衛生健康委員会が関連基準の制定・改定を担当し、市場監督管理当局が監督・執行を担っています。
中国では、食品着色料を天然着色料と合成着色料に分類しており、GB 2760には、使用が認められている着色料の品目、使用対象となる食品、最大使用量、または「製造上必要な範囲で適量を使用」で使用できる条件などが明確に定められています。また、着色料の表示についても規定されており、使用した着色料は食品の原材料表示に一般名称で明記する必要があります。認められた使用範囲を超えた使用や、最大使用量を超える使用は禁止されています。
主な法規制
「食品添加物新品種管理弁法」
「食品添加物新品種申請・受理規定」
申請プロセス
資料提出:
国家衛生健康委員会(NHC)に申請資料を提出します。技術審査:
中国国家食品安全リスク評価センター(CFSA)が専門家による審査を組織し、安全性および技術的必要性を評価します。意見募集:
技術審査を通過した後、広く一般から意見を募集します。承認公告:
最終的に国家衛生健康委員会が正式な承認公告を公布します。
主な申請要件
技術的必要性:
対象となる着色料が食品加工において代替困難な役割を持つことを示す必要があります。例えば、既存の着色料より安定性が高い、表現できる色域が広いといった技術上の必要性を説明するとともに、食品の腐敗を隠す目的で使用されるものではないことが求められます。
毒性学的評価:
使用量や使用範囲に応じて、通常、急性毒性、遺伝毒性、亜慢性毒性、催奇形性・慢性毒性などを含む4段階の毒性試験報告書を提出する必要があります。
品質規格:
企業は、対象となる着色料について、GB規格に相当する品質規格案を作成する必要があります。純度、重金属残留量、微生物指標などが主な項目となります。
米国:着色料請願書(CAP)
米国では、食品着色料は米国食品医薬品局(FDA)によって厳格に規制されており、すべての着色料は市場投入前に、着色料請願書(Color Additive Petition:CAP)の手続きを経て認可を受ける必要があります。
その後の管理方法によって、大きく「ロット認証対象」と「ロット認証免除」の2種類に分けられます。「ロット認証対象」は主として石油由来の合成着色料が対象となり、製造されたロットごとに認証を受けることが義務付けられています。一方、「ロット認証免除」は主に天然由来または生物由来の着色料が対象であり、製造基準や品質規格への適合性が重視されます。
なお、米国では、着色目的で使用する物質に GRAS ルートは適用できません。着色用途の新規物質は、FDA が定める着色料の市場参入要件に適合する必要があります。
近年、FDAは石油由来合成着色料の段階的な廃止に向けた取り組みを加速しています。2025年には、FD&C Red No. 3(エリスロシン)の使用認可を取り消しました。また、以下の8種類について、段階的な廃止を進める方針を示しています。
Citrus Red No. 2
Orange B
FD&C Red No. 40
FD&C Yellow No. 5
FD&C Yellow No. 6
FD&C Blue No. 1
FD&C Blue No. 2
FD&C Green No. 3
一方、天然着色料、特にバイオ製造による着色料については、市場参入のハードルを段階的に緩和する動きも見られます。
例えば、Huito果実由来の天然青色色素や、バタフライピーの水抽出物が天然青色色素として認可されるなど、バイオ製造着色料にとって新たな市場機会が広がっています。ただし、市場参入に当たっては、引き続き安全性データの提出と規制要件への適合性確認が重要です。
主な法規制
連邦食品医薬品化粧品法(FD&C法)第721条
21 CFR Part 71
申請プロセス
CAPの提出:
企業はFDAに着色料請願書を提出します。科学的審査:
FDAの化学部門および毒性学部門が、物理化学的特性と安全性を審査します。規則の公布:
審査を通過した場合、FDAは「連邦官報(Federal Register)」に最終規則を掲載し、21 CFRのリストを更新します。
主な申請要件
物理化学的特性の特定:
着色料の分子構造、化学組成、不純物プロファイルについて、詳細な情報が求められます。残留モノマーや残留溶媒なども重要な評価対象となります。ばく露量評価:
異なる消費者集団について、食事を通じて当該着色料を摂取する場合の最大一日ばく露量を正確に算出する必要があります。環境評価:
申請資料には環境アセスメント(EA)を含め、当該着色料の製造および使用が環境に与える影響を評価する必要があります。
EU:共通認可手続
EUでは、食品着色料の安全性評価を欧州食品安全機関(EFSA)が担当し、欧州委員会がEU共通の市場参入基準および使用条件を定めています。加盟国はこれらを一律適用し、各国が独自に例外措置を定めることは認められていません。
EUでは、食品着色料を食品添加物として統一的に管理しています。使用が認められるすべての着色料は、規則(EC)No 1333/2008に基づく食品添加物のリストに収載され、その使用範囲、最大使用量、品質規格などが明確に定められています。
合成着色料、天然着色料のいずれについても、市場参入にはEFSAによる安全性評価を受ける必要があります。
EUにおける食品着色料規制の大きな特徴として、厳格な表示要件と天然由来への志向が挙げられます。
2010年以降、以下の6種類の合成着色料を含む食品については、「子どもの活動性および注意力に悪影響を及ぼす可能性がある」との警告表示が義務付けられています。
タートラジン(E102)
キノリンイエロー(E104)
サンセットイエロー(E110)
カルモイシン(E122)
ポンソー4R(E124)
アルラレッドAC(E129)
一方、天然由来の着色素材については、「着色性食品原料(colouring foods)」に該当する場合、フィコシアニン(藻蓝蛋白)などは E 番号の表示が不要となるケースがあります。このような制度は「クリーンラベル」のトレンドとも親和性が高く、EU市場における天然着色料やバイオ製造着色料への需要拡大を後押ししています。ただし、食品カテゴリーによって使用可能な着色料や使用条件が異なるため、製品ごとに規制要件を確認する必要があります。
主な法規制
規則(EC)No 1331/2008:共通認可手続
規則(EC)No 1333/2008:食品添加物規則
規則(EU)No 231/2012:着色料の規格要件
申請プロセス
申請書の提出:
欧州委員会(EC)にオンラインで申請書類を提出します。EFSAによる評価:
EFSAは評価依頼を受けた後、通常9か月以内に科学的評価を実施し、意見を公表します。ただし、追加資料が必要となった場合などには、審査期間のカウントが一時停止されることがあります。欧州委員会による決定:
安全性に問題がないとの評価結果が得られた場合、欧州委員会および加盟国による採決を経て、規則(EC)No 1333/2008のAnnex IIのリストに追加されます。
主な申請要件
段階的な毒性学的データ:
EFSAの食品添加物評価ガイダンスに従い、段階的な試験アプローチが採用されます。第1段階(Tier 1)のデータでリスクが示された場合には、より詳細な生殖毒性試験や発生毒性試験などを追加する必要があります。ナノ材料の評価:
新規着色料がナノ構造を有する場合には、EUの厳格なナノ材料安全性評価要件にも追加で対応する必要があります。
中国・米国・EUにおける新規食品着色料の市場参入要件の比較
世界各国で規制要件が異なる中、中国、米国、EUという三つの主要市場における天然着色料、合成着色料、バイオ製造着色料の市場参入ルートの違いを正確に把握することは、食品企業が貿易上の障壁を乗り越え、製品を適法に上市するための重要な競争力となります。
REACH24Hは、企業が「まず評価し、その後に投資する」という考え方を徹底することを推奨します。新規着色料の研究開発や導入を開始する前に、対象市場における市場参入の実現可能性を評価し、必要なデータの不足、コンプライアンスコスト、申請に要する期間を事前に把握することが重要です。
また、バイオ製造については、「生産菌株の安全性」を重要な前提条件として捉える必要があります。着色料そのものの申請を進める前に、生産に使用する菌株の安全性を十分に確認しておくことが求められます。
さらに、毒性試験については、試験データの国際的な相互活用を視野に入れることも重要です。GLPに適合した試験施設を選定し、OECDテストガイドラインを参考に毒性試験を実施することで、一つの試験報告書を複数市場で活用できる可能性を高め、グローバルでの申請コストを最大限に抑えることにつながります。
