一見すると、この定義は明確に思えます。しかし実務では、食品の製造・加工方法が多岐にわたることに加え、「1997年5月15日以前にEU域内で相当量が消費されていたか」という条項に対する解釈の相違から、企業がある食品原料について EU におけるノベルフード該当性を自己判断した結果が、当局の見解と乖離するケースが少なくありません。
その一例が、霊芝(Ganoderma lucidum)です。2025年にEU当局が公表した照会回答では、霊芝の子実体(Fruiting body of Ganoderma lucidum)について、次の条件でNovel Food該当性が検討されました。
製造工程:超音波を利用した水抽出後、凍結乾燥します。
想定用途:一般食品および食品サプリメントへの使用です。
判定結果:
霊芝の子実体:新規食品に非該当
霊芝の菌糸体:新規食品
霊芝の胞子粉末:新規食品
この違いは、霊芝の子実体については1997年5月15日以前からEU域内で相当量の食経験が確認されている一方、菌糸体や胞子粉末については、栄養成分、代謝産物、潜在的な生理活性物質などの面で子実体と同等であることを十分に証明できないためです。
以下では、REACH24Hが2025年に公表されたEU当局へのNovel Food照会事例の一部を整理し、食品企業が原料選定や製造工程を検討する際に特に注意すべきポイントを解説します。
Novel Foodに関するEU公式照会事例
EU (i)類新規食品:新規または意図的に改変された分子構造を有する食品
1.ホウ素グリシネート(Boron glycinate)、ホウ素ビスグリシネート(Boron bisglycinate)
製造工程:いずれも化学合成によって製造される化合物で、ホウ素とアミノ酸であるグリシンをキレート化したものです。
想定用途:食品サプリメントへの使用です。
判断のポイント:これらの物質に含まれるホウ素は、一般的な食品に存在する無機ホウ素とは異なる形態です。ホウ素がグリシンとキレートを形成しており、新規または意図的に改変された分子構造に該当すると判断されました。
判定結果:新規食品
2.微粉化クレアチン一水和物(Micronised Creatine monohydrate)
製造工程:化学合成後、微粉化処理を行います。
想定用途:食品原料として使用します。
判断のポイント:クレアチン自体については、1997年5月15日以前からEU域内における相当量の安全な食経験が確認されています。
判定結果:新規食品に非該当
EU (ii)類新規食品:微生物、菌類または藻類から構成される、あるいはこれらから分離・生産された食品
1.Bacillus coagulans/Heyndrickxia coagulans
想定用途:食品加工工程において、包装前の新鮮な葉物野菜(即食用レタスなど)に原材料として添加します。
判断のポイント:当該菌種は農作物や野菜の表面に広く生息し、ジャガイモ、トウモロコシ、豆類、茶葉などから分離・培養可能です。しかし、食品中に自然に広く存在しているという事実だけでは、「食品原料として摂取されてきた」という食経験の証拠にはなりません。既存データからは、Bacillus coagulansが食品製造時に意図的に配合される原材料として使用されていたことを証明できず、過去の摂取量を合理的に推定できる十分な情報も確認されませんでした。一方、この菌種については、1997年5月15日以前からEU域内で食品サプリメントの製造に使用されていた実績が確認されています。
判定結果:一般食品では新規食品に該当、食品サプリメントでは非該当
2.シロキクラゲ由来コンドロイチン硫酸(Chondroitin sulfate from Tremella fuciformis)
製造工程:食用菌であるシロキクラゲの子実体を使用し、水・アルコール抽出、分離・精製を行った後、化学的に硫酸化します。
想定用途:食品サプリメントへの使用です。
判断のポイント:シロキクラゲの子実体そのものについては新規食品に該当しません。しかし、シロキクラゲから分離・精製したコンドロイチン硫酸については、1997年5月15日以前にEU域内で相当量が消費されていた実績が確認されていません。また、シロキクラゲの菌糸体についても同様です。
判定結果:シロキクラゲ由来コンドロイチン硫酸、シロキクラゲ菌糸体は新規食品に該当。シロキクラゲ子実体は新規食品に非該当
EU (iv)類新規食品:植物または植物の一部から構成される、あるいはこれらから分離・生産された食品
1.ヒドロキシチロソールを10%以上含有するオリーブ(Olea europaea L.)果実水抽出物
製造工程:水抽出後、「物理的クロマトグラフィー法」により特定成分を選択的に濃縮します。
想定用途:乳製品飲料の原材料として使用します。
判断のポイント:オリーブ果実自体にはEUで長い食経験があります。しかし、ヒドロキシチロソールを10%以上含む水抽出物は、オリーブ果実中の特定成分を選択的に濃縮した原料です。このような組成の抽出物については、1997年5月15日以前のEU食品市場における食経験が確認されていません。
判定結果:新規食品
2.Litsea cubeba(アオモジ)の果実
想定用途:香料として使用します。
判断のポイント:当該物質は 1997 年 5 月 15 日以前に食品サプリメントで使用実績があるが、食品としての大量消費実績を示す情報はない。香料は食品で、食品サプリメントのような除外措置は適用されません。
判定結果:新規食品
EU (v)類新規食品:動物または動物の一部から構成される、あるいはこれらから分離・生産された食品
1.VPP・IPPラクトトリペプチドを含むカゼイン加水分解物
製造工程:発酵および酵素分解によって製造されたラクトトリペプチド混合物です。
想定用途:さまざまな食品への使用です。
判断のポイント:カゼイン加水分解物と VPP・IPP は発酵乳製品・チーズに天然に存在し、カゼイン加水分解物には EU での使用実績があります。分画処理を施した製品は当該ペプチド濃度を大幅に上昇させるため、栄養以外の生理作用を発現する可能性があります。摂取による血圧への影響も文献で報告されています。1997 年 5 月 15 日以前に高濃度タイプが EU で流通していた証拠は確認されていません。
判定結果:新規食品
2.乳脂肪球膜(MFGM)を含む牛乳由来ホエイタンパク質濃縮物
製造工程:膜ろ過による濃縮です。
想定用途:乳児用調製乳への使用です。
判断のポイント:一般的なホエイタンパク質濃縮物と比較すると、この原料は脂肪含有量が約2~4倍高く、リン脂質およびスフィンゴミエリンを多く含みます。これらの成分の多くは乳脂肪球膜に由来します。一方、タンパク質含有量はやや低く、乳糖含有量は一般的なホエイタンパク質濃縮物の約10分の1~12分の1です。ただし、この原料については、1997年5月15日以前からEU域内の乳幼児用食品に使用されていた実績が確認されています。
判定結果:新規食品に非該当
EU (vii)類新規食品:
UV処理ワイン:処理量3 kJ/Lと6 kJ/Lで判定が分かれるケース
製造工程:波長254 nmの紫外線(UV-C)処理です。
判断のポイント:UV‑C 処理は、アルコール発酵終了時、マロラクティック発酵終了時、熟成などの段階で微生物安定化処理を行い、ワイン中の SO₂含有量を低減することを目的とします。UV‑C 処理は 1997 年 5 月 15 日以前にワイン製造で広く活用されていませんでした。参考資料の評価によれば、3 kJ/L の線量で UV‑C 処理したブドウ果汁およびワインは、組成・構造に著しい変化が生じず、栄養価、代謝、望ましくない物質のレベルにも影響を及ぼさないため、新規食品には該当しません。一方、6 kJ/L で UV‑C 処理したワインについては、従来製法のワインと比べ組成に著しい変化がないことを提出資料で証明できておらず、特に UV 処理強度に依存する望ましくない物質の発生可能性を排除できていません。
判定結果:最大6 kJ/LでUV処理したワインは新規食品に該当、最大3 kJ/LでUV処理したワインは新規食品に非該当
補足:食品への紫外線処理に関する規制はEU加盟国ごとに異なる場合があります。UV処理そのものについて各国の主管当局による認可等が必要となる可能性があります。
REACH24Hからの提言
EU向け食品・食品原料の開発や輸出を計画している企業は、Novel Food該当性を確認する際、少なくとも以下の4つのステップで事前確認を行うことをおすすめします。
1.食経験を確認する
まず、対象となる物質について、1997年5月15日以前にEU域内で相当量の食経験または販売実績があったかを確認します。この際、単に同じ原料名が使用されていたかを見るだけでは十分ではありません。同じ部位・形態、同等の摂取量および使用条件で過去に使用されていたかまで確認することが重要です。
2.使用条件を明確にする
同じ原料であっても、一般食品に使用するのか、食品サプリメントに限定して使用するのかによってNovel Foodの判定が異なる場合があります。過去に食品サプリメントでの使用実績があるからといって、必ずしも一般食品への使用が認められるわけではありません。
3.製造工程を確認する
抽出、濃縮、酵素分解、発酵、UV処理、化学修飾などの製造・加工工程によって、最終製品の組成や構造が大きく変化していないか確認します。特に、特定成分を選択的に濃縮している場合や、従来食品には見られない高濃度の成分を含む場合には、元の食品に十分な食経験があっても、新規食品と判断される可能性があります。
4.科学的エビデンスを準備する
必要に応じて、既存の食経験を有する食品・原料との同等性を立証するため、組成比較データ、製品規格、製造工程に関する資料、安全性データ、毒性試験データなどを準備する必要があります。Novel Foodの該当性は、「天然由来か」「昔から食べられている植物か」といった単一の要素だけで判断できるものではありません。原料の由来、使用部位、製造工程、最終的な組成、使用用途、想定摂取量、EU域内での食経験を組み合わせて評価することが重要です。
EU市場向けの新規食品原料を開発・販売する場合は、製品開発の早い段階でNovel Food該当性を確認することで、上市直前の処方変更や追加試験、申請によるスケジュール遅延といったリスクを抑えることができます。
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