中国・米国・EUの微生物タンパク質規制比較:新規食品原料申請とGRAS対応を効率的に進めるには

中国・米国・EUの微生物タンパク質規制比較:新規食品原料申請とGRAS対応を効率的に進めるには

2026-08-27
2025年11月27日、中国国家衛生健康委員会(NHC)は2025年第7号公告を公表し、Fusarium venenatum由来マイコプロテイン(Mycoprotein from Fusarium venenatum)を新規食品原料として正式に収載しました。これは、2023年第10号公告で公表された酵母タンパク質(Yeast protein from Saccharomyces cerevisiae)に続き、中国で承認された2例目の微生物由来タンパク質原料です。中国における微生物タンパク質の規制整備と産業化が、新たな段階に入ったことを示しています。

REACH24Hでは、微生物タンパク質の発展と製造、中国・米国・EUにおける規制・市場の状況、原料の主な用途などの観点から整理し、企業の事業展開に向けた参考情報を紹介します。

微生物タンパク質の発展

人口増加や資源・環境制約が世界的な課題となる中、タンパク質供給は従来の農畜産を中心とした生産から、バイオテクノロジーを活用した多様な生産へと移行しつつあります。現在では、新たな生産・養殖手法とバイオ製造を組み合わせることで、タンパク質生産の選択肢が広がり、資源利用の効率化と環境負荷の低減を両立する供給体系の構築が進められています。こうした流れの中で、植物由来タンパク質、昆虫由来タンパク質、微生物タンパク質、細胞由来タンパク質という4つの主要分野が形成されています。

このうち微生物タンパク質は、微生物を培養・発酵して得られる菌体由来の高品質なタンパク質です。生産効率が高く、低炭素・持続可能性の面で優位性があり、栄養バランスにも優れることから、世界の食品・飼料産業における重要なイノベーション分野となっています。

微生物タンパク質の製造

微生物タンパク質の代表的な製造工程は、菌株の選抜、バイオマス発酵、核酸除去、不活化、遠心・ろ過、抽出・精製、噴霧乾燥などに整理できます。製造プロセス全体の目的は微生物タンパク質を効率的に生産することです。このため、最初の工程である生産菌株の選定は、その後の製造効率および製品品質を左右する重要な要素となります。

微生物の種類を選定する際には、増殖が速く、タンパク質含有量が高く、安全性の高い菌株を優先して検討します。主なタイプは以下のとおりです。

微生物群

主な特徴

代表的な菌種

糸状菌

天然の繊維状構造を有し、タンパク質含有量が高く、固体発酵への適性があります。

Fusarium venenatum

酵母

耐性が高く、増殖サイクルが短く、タンパク質を抽出しやすいことが特徴です。

Saccharomyces cerevisiae

微細藻類

光独立栄養と従属栄養を切り替えられるものがあり、機能性が多様です。クロロフィルや不飽和脂肪酸(DHA/EPA)を豊富に含みます。

Nannochloropsis属

中国・米国・EUにおける主な微生物タンパク質の規制対応事例

中国側:「承認・収載原料

微生物タンパク質の種類

承認・収載原料

糸状菌由来タンパク質

Mycoprotein from Fusarium venenatum

(Fusarium venenatum A3/5 または TB01)

酵母由来タンパク質

Yeast protein from Saccharomyces cerevisiae

微細藻類由来タンパク質

Chlamydomonas reinhardtii

Chlorella pyrenoidosa

Euglena gracilis

Nannochloropsis gaditana

上記の微細藻類は、タンパク質含有量が高いだけでなく、多様な栄養成分を含むバイオマスでもあります。

米国側:「GRAS 関連物質

微生物タンパク質の種類

GRAS関連物質

糸状菌由来タンパク質

Mycoprotein from Fusarium venenatum

Fungal protein from fermented Fusarium sp. mycelia

Mycelial biomass from Neurospora crassa

酵母由来タンパク質

Yeast biomass produced by Kluyveromyces marxianus CCTCC M 20211265

Dried Saccharomyces cerevisiae yeast fermentate

Hydrolyzed Saccharomyces cerevisiae

微細藻類由来タンパク質

Dried biomass of Chlamydomonas reinhardtii

Chlorella protothecoides strain S106 flour with 40–75% protein

Chlorella sorokiniana powder and C. sorokiniana micro powder

Dried biomass of Arthrospira platensis,

also known as Spirulina platensis(Spirulina)

EU 側:「認可原料」

微生物タンパク質の種類

認可原料

糸状菌由来タンパク質

Mycoprotein of Fusarium venenatum strain A3/5(NRRL 26139)

酵母由来タンパク質

Yeast protein of Saccharomyces cerevisiae

Torula yeast(Cyberlindnera jadinii)biomass

Yarrowia lipolytica yeast biomass

微細藻類由来タンパク質

Dried Euglena gracilis

Dried Tetraselmis chuii microalgae

Aphanizomenon flos-aquae var. flos-aquae Ralfs ex Bornet & Flahault 1886

Arthrospira platensis Gomont 1892

Heterochlorella luteoviridis

微生物タンパク質の用途と発展

原料の主な用途

微生物タンパク質は、高タンパク・低脂質で、アミノ酸組成のバランスにも優れることから、さまざまな食品に利用されています。

  • 糸状菌由来タンパク質:肉様食品との相性がよく、発酵によって形成される菌糸体が畜肉に近い繊維状構造を形成します。鶏肉や牛肉に近い食感や咀嚼感を再現しやすく、肉様食品に適した原料です。

  • 酵母由来タンパク質:主に栄養強化用途で利用されます。アミノ酸組成のバランスがよく、消化・吸収されやすいことから、プロテインパウダー、プロテイン飲料、穀物製品などに幅広く使用され、製品のタンパク質含有量を高める栄養補給原料として活用されています。

  • 微細藻類由来タンパク質:高タンパクであることに加え、DHAやβ-グルカンなどの天然由来の機能性成分を含むものもあり、多様な栄養ニーズへの対応に利用されています。

産業の発展動向

政策による後押し

2024 年に公表された関連意見では、「合成生物技術を積極的に発展させること」「微生物菌体タンパク質を普及させること」「藻類食品の開発を加速すること」が明確に示されました。さらに、2025 年の「農産物消費促進実施計画」では、菌体タンパク質などの新たな食品原料の研究開発を後押しし、産業化に向けた政策面での支援を強化しています。

業界の進展

2025年、中国においてFusarium venenatum由来の微生物タンパク質が新規食品原料として正式に承認されました。

現在、中国国内の関連企業では量産体制の構築が加速しており、大規模生産ラインの整備が進んでいます。微生物タンパク質素材は従来の研究開発フェーズを脱し、市場への供給や商用活用が進み、中国における多様かつ安定的な食料供給体制の構築を支えています。微生物タンパク質産業の発展に伴い、各企業は中国市場にとどまらず、米国を中心とした海外市場への進出も積極的に推進しています。現在、複数の微生物タンパク質素材が米国FDAのGRAS制度による安全性審査を順次通過・進行しています。

今後、より多くの微生物タンパク質製品が開発され、各国・地域での規制対応が進むことで、申請・評価プロセスもさらに整備されていくことが期待されます。技術革新、政策支援、市場ニーズが重なる中、微生物タンパク質産業は今後、量産化と用途の多様化が一段と進むと考えられます。

微生物タンパク質の主なコンプライアンスルート

多くの微生物タンパク質は、新たな食品原料として各国・地域の制度に基づく評価が必要となります。主なコンプライアンスルートは以下のとおりです。

中国:新規食品原料として申請します。「新規食品原料安全性審査管理弁法」に基づき、安全性評価や技術審査などを経て承認を取得します。

米国:GRAS(Generally Recognized as Safe:一般に安全とみなされる)の考え方に基づき、科学的根拠によって安全性を確認し、FDAへGRAS通知を行うことができます。

EU:新規食品(Novel Food)として申請を行い、欧州食品安全機関(EFSA)による安全性評価を経た上で、欧州委員会による認可を取得します。

いずれの制度でも、安全性を科学的に立証することが基本となります。菌株特性、製造工程・品質、栄養成分、毒性学データ、食経験などの資料を体系的に準備し、各国・地域の食品安全およびコンプライアンス要件に適合することを示す必要があります。REACH24Hでは、特に以下の資料について、申請時の重要ポイントを整理しています。


資料区分

主な確認ポイント

菌株特性

微生物の分類・同定、菌株保存証明、全ゲノムシーケンス(WGS)データ、潜在的リスク遺伝子の検出データおよび遺伝子解析、生菌残存試験

栄養情報

アミノ酸組成の完全性、タンパク質の消化吸収性および品質評価(例:PDCAAS)を重点的に確認し、主要なタンパク質源の代替としての栄養適合性を評価します。

毒性学データ

段階的な毒性評価、変異原性試験、反復投与毒性試験、無毒性量(NOAEL)および一日摂取許容量(ADI)の設定

アレルゲン性データ

アレルゲン性の評価・分析

製造工程・品質

品質規格(タンパク質純度、核酸(RNA)限度)、安定性データ、異なる保存条件(温度・湿度)における賞味期限、および栄養・安全性指標の変化

微生物を選定する際には、すでに関連する承認実績がある同一菌種を優先的に検討することが有効です。例えば、中国の「食品に使用可能な菌種リスト」「乳幼児食品に使用可能な菌種リスト」に収載されている菌種、またはEUの安全性適格推定(Qualified Presumption of Safety:QPS)リストに含まれる微生物を選定することで、毒性学関連資料の準備負担を軽減できる可能性があります。

遺伝子組換え微生物を使用する場合には、中国では「農業遺伝子組換え生物安全管理条例」および「食品加工用遺伝子組換え微生物の安全性評価」などの関連要件を確認する必要があります。EUでは、「Guidance on the characterisation of microorganisms in support of the risk assessment of products used in the food chain」を参照する必要があります。

申請資料を十分かつ体系的に準備することは、審査中の追加資料対応を減らし、申請効率の向上につながります。なお、EU で認可される新規食品については、所定の条件を満たしたうえで申請者が提出した専有データの保護が認められた場合、最長 5 年間のデータ保護を受けることができます。

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