EU、REACH規則の全面改正を断念

EU、REACH規則の全面改正を断念

2026-05-14

2026年4月27日、EU環境担当委員ジェシカ・ロズウォール(Jessika Roswall)氏は欧州議会ENVI特別会合にて、欧州委員会がREACH規則の全面改正に係る立法提案を提出しない方針を正式に発表しました。同氏は「確実性と予測可能性が求められるこのような状況において、規則の全面改正は適切な施策とはならない」と指摘しています。

本決定により、2020年に化学品持続可能戦略(CSS)が策定・実施されてから約6年間続いたREACH規則全面改正の手続きが完全に終了となります。

これまで業界から高い注目を集めていたCARACAL改正草案には、登録有効期間10年設定・ポリマー強制登録・混合物評価係数(MAF)など一連の改革措置が盛り込まれ、多くの企業がコンプライアンス対応上のリスクに直面すると懸念されていました。今般の立法提案撤回により、これらの規定は正式に棚上げ扱いとなります。

CARACAL-54:史上最大規模の改正草案

2025年4月、欧州委員会は第54回CARACAL会合おいて、REACH規則の全面改正草案を公表し、以下の改革内容を提示しました。

  • EU REACH登録有効期間を10年に短縮、ECHAに登録番号取消権限を付与

  • 年間取扱量1トン超のポリマーは届出義務が課され、特定ポリマーはREACH登録を義務付け

  • PMT/vPvM物質・内分泌攪乱物質など新たな有害性区分を新設

  • 混合物評価係数(MAF)を導入し、化学物質の累積リスクを評価

  • Annex III・Annex XIIIを廃止し、低トン数帯のデータ提出要件を大幅に強化

  • デジタルプロダクトパスポート(DPP)及び電子安全データシート(e-SDS)の導入を推進

本提案は「欧州化学品規制史上最大規模の改革」と位置づけられ、世界の化学業界に広範な議論と懸念をもたらしました。

CARACAL-54.png

REACH規則全面改正が棚上げとなった要因

影響評価が二度にわたり否決

2025年9月、欧州委員会が規制審査委員会(RSB)に提出した改訂版影響評価資料が否決されました。RSBは、当該評価内容が欧州委員会の現在の競争力重視の政策方針と整合しないと指摘しています。

加盟国ドイツの強い反対

欧州随一の化学産業基盤を有するドイツは、2025年3月に『国家化学品アジェンダ』を公表し、EU化学品規制の簡素化を優先し、特にREACH規則の見直しを推進する方針を明確に示しました。

化学業界による集中的なロビーイング活動

Corporate Europe Observatoryの集計によると、2025年だけでCefic・BASFを中心とする化学業界は、REACH関連課題について欧州委員会高官と計93回の会談を実施しました。一方、NGOとの協議機会はわずか19回に留まり、政策提言ルートにおける双方の影響力格差は顕著でした。

EUの政治風向が根本的に転換

欧州グリーンディールの推進ペースが鈍化し、欧州委員会は新任期の政策重心を環境保護から産業競争力強化・規制簡素化へとシフトしています。加えて対外貿易の圧力も、REACH全面改正を推進する政治的余地を大きく狭めています。

REACH改正棚上げ、規制が停滞するわけではない

全面的な立法改正は断念されたものの、ロスウォール委員の発言によると、欧州委員会は代替ルートを通じて規制改革を継続推進する方針です。

1. コミトロジー手続きによる規制の簡素化・近代化

コミトロジー手続きとは、欧州議会・理事会の本格的な立法審議を経ず、欧州委員会の権限でREACH規則附属書や技術細則を改正できる簡素な制度です。 REACH附属書の改正(二次立法)で対応可能な内容については、今後も改正・強化が進められる余地が残されています。

REACH 改正内容と状況.png

2. 体制の強化:国境管理・市場監視の徹底

欧州委員会は不適合化学品・製品の取り締まり強化を目的とした特別イニシアチブを立ち上げ、二つの重点施策を推進します。

  • 国境管理:REACH/CLPに不適合な輸入製品のEU域内流入を国境段階で阻止

  • 市場監視:EU域内市場における化学品コンプライアンスの監視体制を強化

これはREACH規則本文の改正は行われないものの、現場の執行圧力はむしろ高まることを意味します。

企業への影響

短期的見通し:経営計画の予測可能性が安定

  • 現行のEU REACHコンプライアンス枠組みが維持され、制度変更による混乱が回避

  • 登録有効期間の制限導入・ポリマー新規登録義務化などの懸念が一時的に解消

  • 企業は短期の事業・コンプライアンス計画を安定的に策定可能

中長期的留意点:継続的な動向監視が必須

  • PFAS規制制限案が次の重要な規制節目となり、2026年末までに公表・施行される見込み

  • REACH登録ファイルの更新義務及びコンプライアンス審査が強化される可能性が高い

  • 2029年に新たな欧州委員会が発足後、REACH全面改正が再び議題に上る見通しがある

REACH24Hからの対応策

EU市場を対象とする化学品関連企業に対し、以下の対応を推奨いたします。

  1. 警戒を緩めないでください。改正棚上げは規制緩和ではなく、データ要件の見直しや執行強化は今後も着実に進みます。

  2. PFAS関連規制を重点的にフォローし、フッ素含有化学品を取り扱う企業は早期に代替物質の評価とサプライチェーンのリスク調査を実施してください。

  3. 既存のREACH登録ファイルを定期的に点検し、データの完全性及び規制適合性を確保してください。

  4. 欧州委員会の政策動向を継続的に注視し、附属書改正を通じてコンプライアンス基準が「静かに引き上げられる」ケースに備えてください。

  5. 輸出製品のREACH登録SDSなどコンプライアンス書類を完全に整備し、国境管理強化に伴う輸入差し止めリスクを回避してください。


規制に関する詳細については、お問い合わせください。
お問い合わせフォーム