中国では、研究開発に使用することだけを理由に、新規化学物質の登録が免除されるわけではありません。 日本から中国へ研究用サンプルを送付する場合や、中国の研究拠点で物質を合成・試作する場合は、単なる使用にとどまるのか、製造または輸入に該当するのかを分けて確認する必要があります。
中国生態環境部(MEE)は2026年10月24日、『新化学物質環境管理登記弁法』(生態環境部令第40号、以下「第40号令」)を公布しました。同日から施行され、従来の第12号令は廃止されています。
REACH24Hは、現行条文に基づき、第40号令が「研究」を独立した活動として列挙しなくなったことは、研究開発全般への登録免除を意味するものではないと解釈しています。一方、探索的な実験室内の反応を「製造」と扱うかは、具体的な活動内容に応じた判断や、今後の実施ガイダンスの確認が必要です。
研究開発における3つの場面と登録要否
中国国内で適法に供給された物質を実験や分析に使用する場合
適法に供給された物質を実験、分析、試験に使用するだけであれば、研究を行うこと自体を理由として、新たな登録義務が生じることはないと考えられます。ただし、次の事項は確認が必要です。
• 「中国現有化学物質名録」(IECSC)への収載状況、または適法な登録状況
• 予定する研究用途が、登録証に記載された用途などの条件に含まれているか
• IECSC収載物質に、新用途環境管理の要件が適用されないか
必要に応じて、供給者から登録証番号、登録用途、有害性情報および環境リスク管理措置に関する情報を入手してください。予定用途が登録証の条件に含まれていない場合は、実施前に登録証保有者が変更手続を検討する必要があります。
第32条と第33条では、IECSC収載前の通常登録について再登録を要する変更、登録証の変更手続、および上位区分の登録が必要となる場合を区別しています。用途変更を、すべての登録区分で一律に扱うことはできません。
また、第46条第3号の「加工使用」には、新規化学物質を用いた小分け、調合、製品製造などの生産・事業活動が含まれます。研究機関であっても、これらの活動に該当する場合は、加工使用者としての義務を確認する必要があります。
中国国内で合成や試作を行いパイロット生産へ進む場合
研究開発という名目だけで、製造に該当する活動が登録対象外になるわけではありません。パイロット生産、スケールアップ、連続的な製造、製品開発や商業化に向けた物質の調製などは、実際の活動内容に基づいて評価します。対象となる新規化学物質の製造に該当する場合は、製造開始前に該当する登録証を取得する必要があります。
委託製造では、第11条上、実際に製造する事業者が、通常、製造者として申請する主体となります。委託者は、登録の担当者、責任分担および登録証情報を契約で明確にすることが推奨されます。ただし、契約上の取り決めによって法令上の要件が置き換わるものではありません。
純粋に探索を目的とした実験室内の反応が「製造」に該当するかは、個別の事実関係に左右されます。判断が難しい場合は、実験室内の活動であることだけを根拠に対象外とせず、開始前に主管当局へ確認することをREACH24Hは推奨します。
中国へ研究用サンプルや標準物質を輸入する場合
対象となる新規化学物質を研究用サンプルや標準物質として中国へ輸入する行為も、輸入に該当します。少量の貨物であることは、それだけでは免除理由になりません。例えば、中国の研究機関が海外から新規の触媒サンプルを購入する場合、使用先が研究室内に限られていても、輸入前の登録対応を検討する必要があります。
出荷前には、物質の識別情報、IECSC収載状況、適用除外の有無、年間輸入量および登録の対象範囲を確認します。第2条の税関特殊監督管理区域に関する例外は、同区域内で保管し、一切加工せずに全量を再輸出する場合の規定です。中国国内の研究室で使用するサンプルに、当然に適用されるものではありません。
第40号令による研究活動の位置付けの変更
旧第12号令の第2条は、研究、製造、輸入および加工使用を列挙していました。第40号令の同条は製造と輸入を対象に記載していますが、加工使用者の義務は他の条文に引き続き規定されています。
| 比較項目 | 旧第12号令 | 現行第40号令 |
|---|---|---|
| 研究者の位置付け | 活動記録、有害性・リスク情報の報告、監督検査などの規定で明示。 | 対応する事後管理規定では、研究者を独立して列挙していない。 |
| 申請主体(一般の新規化学物質) | 製造者・輸入者。一定の国外企業も中国国内代理人を指定して申請可能。 | 中国国内で適法に登記され、独立して法的責任を負うことができ、実際に製造・輸入を行う企業・事業体。 |
| 登録区分 | 通常登録、簡易登録、届出。 | 通常登録、簡易登録、形式登録。 |
| 研究目的による免除 | 研究目的全般を対象とする免除規定はない。 | 研究目的全般を対象とする免除規定はない。 |
旧第12号令においても、「研究」は独立した登録区分ではありませんでした。研究や研究者に関する記載が削除されても、研究の過程で生じる製造・輸入の登録義務までなくなるわけではありません。第8条の科学研究奨励規定も、登録免除を定める条文ではありません。
申請主体や旧制度下の登録証・届出の扱いなど、改正全体については、第40号令と第12号令の比較解説をご参照ください。
意見募集稿にあった研究用途の除外は採用されていない
2026年6月の改正意見募集稿では、科学研究や検査・試験・計量・モニタリングなどの技術サービスに使用する化学物質を、適用対象から除外する案が示されていました。この除外規定は、正式に公布された第40号令には引き継がれていません。 意見募集稿を説明した過去の記事を、そのまま現行制度上の免除根拠として使用しないよう注意が必要です。
物質の該当性と適用される登録区分
第3条では、原則としてIECSCに収載されていない化学物質を新規化学物質としています。ただし、IECSCに収載されていても、新用途環境管理の対象となる物質は、該当する要件に基づいて登録の要否を確認する必要があります。
第34条は、高有害性化学物質と、残留性・生物蓄積性・毒性の所定の組合せを有する物質を区別しています。高有害性化学物質では、登録証保有者による用途変更や、登録証保有者以外の者による工業用途での使用が対象です。その他の所定の物質では、認められた用途以外の工業用途への使用が対象となります。物質の区分、使用する主体および用途を併せて確認してください。
第2条が定める製品・物質の適用除外も確認します。同条は、所定の製品、放射性物質、前述の税関区域内での保管・再輸出などを扱い、他の工業用途への変更や原料・中間体には別途条件を設けています。研究用化学物質全般を対象外とする規定ではありません。
新たな申請では、第10条に基づき、次の区分を確認します。
| 登録区分 | 対象となる主な条件 |
|---|---|
| 通常登録 | 新規化学物質の年間製造量または輸入量が10トン以上。 |
| 簡易登録 | 新規化学物質の年間製造量または輸入量が1トン以上10トン未満。 |
| 形式登録 | 年間製造量または輸入量が1トン未満、または新規化学物質であるモノマー・反応体の含有率が2%以下のポリマーもしくは低懸念ポリマー。 |
形式登録(中国語:形式登记)は、旧制度の届出(备案)と区別する必要があります。対象となる製造・輸入は、該当する登録証を取得してから開始します。旧制度下で取得した登録証や届出については、記載された範囲や適用される経過措置を別途確認してください。
研究機関が負う事後管理義務
研究機関が自ら製造・輸入を行い、登録証を保有する場合は、その立場に応じた義務を確認する必要があります。研究目的であることによって、製造者・輸入者としての義務がなくなるわけではありません。
| 項目 | 対象と条件 |
|---|---|
| 川下への情報伝達 | 製造者・輸入者は、登録証番号、登録用途、有害性、環境リスク管理措置および環境管理要件を伝達。 |
| 記録と保存 | 登録を受けた製造者・輸入者は活動記録を作成。通常・簡易登録の資料と活動記録は10年以上、形式登録は3年以上保存。 |
| 情報公開 | 通常登録物質の製造者は、環境リスク管理措置および環境管理要件の実施状況を公開。 |
| 初回活動報告 | 登録証保有者は、初回製造日から60日以内、または初回輸入後に加工使用者へ移転した日から60日以内に報告。 |
| 年次報告 | 通常登録証に提出義務が記載されている場合、登録翌年から毎年4月30日までに前年分を報告。 |
| 新たな有害性・リスクと監督検査 | 製造者・輸入者・加工使用者は、新たな有害性・環境リスクを速やかに報告し、必要なリスク低減措置を実施。監督検査にも対応。 |
第42条の初回活動報告には、形式登録証保有者を明示的に除外する規定はありません。具体的な提出方法は、今後の公式ガイダンスおよび登録システムの運用を確認する必要があります。
一方、実験室で研究使用のみを行う機関には、「研究者」であることだけに基づく個別の事後管理義務は、現行条文上、設けられていません。第40条の記録義務は、登録証を取得した製造者・輸入者が対象です。ただし、加工使用者に該当する場合は、第39条、第43条、第44条に基づき、供給者への情報提供の要求、新たな有害性・リスクの報告、監督検査への対応などを確認します。
また、登録義務が生じない場合でも、他の環境関連義務は残ります。『中華人民共和国生態環境法典』第644条は、化学物質の製造、輸入、保管、輸送、販売、使用、処分に関する法令遵守を求めています。第527条では、実験室で発生する固体廃棄物の適法な収集、保管、輸送、利用および処分を要求し、有害廃棄物に該当する場合は、その管理規定が適用されます。
無登録や登録条件違反に対する罰則
第40号令には独立した法的責任の章はありませんが、生態環境法典第1206条と第1207条に罰則が規定されています。対象には、登録証の条件に反する製造・輸入、必要な登録証を取得せずに行う製造・輸入、および必要な登録証を持たない事業者が製造・輸入した新規化学物質を用いた製品製造が含まれます。
違反には、是正命令と20万~100万元の行政上の制裁金が科されます。是正を拒否した場合は、100万~200万元の制裁金に加え、生産制限や生産停止による是正措置の対象となります。重大な場合には、所定の承認を経て営業停止・閉鎖が命じられる可能性があります。
研究開発の開始前に確認したい5つの事項
1. 物質の規制上の位置付け:識別情報、IECSC収載状況、新用途環境管理の該当性を確認します。
2. 中国国内で行う活動:国内調達物質の研究使用と、合成、試作、パイロット生産、委託製造、直接輸入を分けて整理します。
3. 適用される登録区分:予定する年間製造量・輸入量と、ポリマー要件を確認します。
4. 既存の登録範囲との整合性:用途、活動区分、数量、リスク管理措置を照合し、変更や再登録の要否を確認します。
5. 供給者・委託先との責任分担:実際の製造者・輸入者、登録の対象範囲、登録証番号とリスク管理情報の入手方法を明確にします。
探索的な研究活動と製造の境界に関わる案件では、今後公表される実施ガイダンスも確認した上で計画を進めることが推奨されます。
REACH24Hによる中国新規化学物質登録の対応支援
REACH24Hは、日本企業を含む海外サプライヤーおよび中国国内の事業者に対し、中国新規化学物質登録の対応を支援しています。研究開発案件では、次の事項を確認し、必要な対応の整理を支援します。
• IECSC収載状況の調査と適用確認:物質の新規・既存の該当性や新用途管理の要件を確認します。
• 登録ルートの評価:用途、年間数量、ポリマーの条件から、適用される登録区分を検討します。
• 申請主体と役割分担の整理:中国国内で実際に製造・輸入する主体を踏まえ、サプライチェーン上の対応を検討します。
• 保有資料のレビューとデータギャップ分析:物質情報や用途情報、既存データを確認し、追加準備が必要な事項を整理します。
中国向け研究用サンプルの登録対応
ご相談の際は、物質名・CAS番号、研究用途、年間予定数量、製造・輸入予定時期、想定する中国側の製造者・輸入者、および既存の登録証・届出の有無をご共有ください。提供可能な情報を基に、適用される要件と次の対応を検討します。
