2026年6月1日、欧州化学品庁(ECHA)は、第4回となるREACH規則およびCLP規則の実施状況報告書を正式に公表しました。本報告書は 2021 年~2025 年の EU 化学品関連法規の運用実績を体系的にまとめた内容となっています。

本報告書は、REACH規則第117条第2項に基づく法定報告であり、ECHA が欧州委員会及び各関係者へ提出する実施状況の総括報告です。また、今後の規制方針を示す重要な指標ともなります。
報告書では、REACH規則およびCLP規則が、引き続きEUにおける化学品安全管理の中核的な柱であり、人の健康と環境を保護するとともに、EU化学産業の競争力を支える重要な制度であることが確認されています。
一方で、データ品質、登録ドシエの更新、科学委員会の人員不足といった課題が、制度の円滑な運用を阻むボトルネックとして指摘されています。
登録データ詳細分析:中国が OR 登録の製造元国で首位を維持
登録はREACH規則の根幹をなします。報告書によると、2021年から2025年にかけて、EU化学品登録制度は、初期の登録集中フェーズから、既存登録の維持管理を中心とする段階へ完全に移行しました。
登録総数と有効状況

過去5年間において、登録ドシエの更新回数は45,189回に達し、初回登録件数18,911件を大きく上回りました。これは、REACH制度がすでに「新規登録」中心の段階から、「既存データの維持・更新」中心の段階へ移行していることを示しています。
特に注意すべき点として、現在有効な登録のうち54%は過去5年間に一度も更新されておらず、16%は10年以上更新されていません。今後、これらの長期間未更新の登録ドシエは、ECHAによるコンプライアンスチェックの重点検査対象となる見込みです。
登録者の役割分布:輸入者と唯一代理人の存在感が高まる
報告書では初めて、5年間の視点から登録者がサプライチェーン上で果たす役割の構成が詳細に示されました。データによると、輸入者と唯一代理人(OR)が登録者の大多数を占めています。

EU域内製造者による登録比率は、2008年以降の累計で29%であったのに対し、直近5年間では16%まで低下しました。一方、ORの比率は28%から37%へ上昇しています。
これは EU 市場へ化学物質が輸入ルートで流通するケースが増加していること、また EU 域外製造業者が OR を活用し REACH 適合手続きを行うケースが拡大していることを裏付けています。
OR登録を行う製造元国:中国が首位
報告書では、ORを通じて登録を提出した製造者の所在国分布も示されています。このデータは、各国の化学製品のEU向け輸出規模とコンプライアンス意識を間接的に反映しています。

中国は25%の比率で、OR登録の製造者所在国として第1位を維持しています。これは、中国化学企業の対EU輸出規模が大きく、製品カテゴリーも広範であり、全体としてREACHコンプライアンス意識も高いことを示しています。
反面、中国企業の登録ドシエは今後、ECHA のコンプライアンス審査において頻繁な抽出検査を受ける可能性が高まります。
ドシエ評価データの詳細分析:データギャップが最大の課題
登録がREACH制度の「入口」であるとすれば、評価はECHAがデータ品質を確保するための「関門」です。報告の評価データから明らかになった最大の課題は、データ作成のスピードが年々高まる規制要求に追いついていないことです。
コンプライアンスチェック(CCH):5年間で1万件超のドシエを審査、6,693 件のデータ補充要請

REACH24Hの分析では、ECHAによる登録ドシエのコンプライアンスチェックは、現在も高い水準で継続されています。抽出された登録ドシエでは、データ不足が広く確認されており、平均すると1件のCCH決定につき約5.6項目のデータ補足要求が含まれています。
このことから、登録ドシエの更新は依然として急務であり、企業は既存登録を「提出済み」として放置するのではなく、継続的にデータを見直す必要があります。
補足要求データの分布:顕著なデータ不足箇所
報告書では初めて、5年間で発生した6,693項目の補足データについて、データ項目別の分布が公表されました。これは、企業が自社登録ドシエの脆弱な部分を評価するうえで非常に参考になります。

多くの早期登録ドシエでは、長期水生毒性、変異原性、生分解性などのデータについて、データ免除(Waiving)戦略が採用されていました。しかし、従来の根拠論理では、近年強化された ECHA の審査基準を満たせないケースが増えています。
また、これらの項目は長期かつ高額な毒性試験を伴うため、データ補充にかかる費用が、当初の登録費用を大幅に超える可能性も懸念されます。
SVHC、認可、制限およびCLP分類:監督ネットワークは継続的に強化
登録および評価に加え、SVHCの特定、認可、制限、CLP統一分類は、REACHおよびCLP規則の「後段階の監督ループ」を構成しています。報告書のデータからは、この監督ネットワークが2021年から2025年にかけて継続的に強化されていることが分かります。

SVHCリストは継続的に拡大しており、制限提案の対象範囲も広がっています。また、CLP分類体系も全面的に更新されつつあります。これにより、サプライチェーンの透明性に対する監督はさらに深まっています。
EUでは、有害物質の特定、制限、段階的な使用削減が加速しており、関連製品のEU市場参入リスクについて、企業はより慎重に確認する必要があります。
執行とコンプライアンス:2万件超の検査、輸入混合物の不適合率は32%に達する
2021年から2025年にかけて、ECHAの執行フォーラム(Forum)は、10件の大規模な共同執行プロジェクトを調整しました。その内訳は、5件のREFプロジェクトと5件の試行プロジェクトです。累計で2万件を超える現場検査が実施され、1,046名の執行トレーナーおよび検査官が研修を受けました。
報告書では、ForumとEU各国税関との協力が常態化しつつあることも明記されています。これは、化学品輸入に関するREACHコンプライアンス確認が、従来の「事後監督」から「港湾・通関段階での差止め」へ移行しつつあることを意味します。中国を含むEU向け輸出企業にとって、これは非常に直接的な影響をもたらします。
2024年の重点執行結果では、警戒すべき比較データが示されました。単独で輸入される化学物質の未登録不適合率は7%であったのに対し、混合物中の化学品では32%に達しました。主な原因は、輸入者によるREACH義務への認識不足です。

塗料、接着剤、インク、洗浄剤など、化学物質を含む混合物製品をEUへ輸出する場合、混合物中の各成分について登録義務が完了しているかを必ず確認する必要があります。登録義務を満たしていない場合、製品の差押えや違反処分につながる可能性があります。
REACH24Hからの注意喚起
2021年から2025年を対象とする今回の第4回運用報告は、REACHおよびCLP規則が約20年にわたり運用されてきた中での段階的成果を体系的に総括するものです。同時に、EU化学品監督の次の段階に向けた明確な方向性も示しています。
企業にとって、本報告書が伝える核心的なメッセージは、次の一言に集約できます。
登録を完了することは出発点にすぎず、継続的なデータ品質管理とコンプライアンス対応こそが、長期的な競争力を示すものです。
REACH24Hは、EU向け輸出企業に対し、登録ドシエの動的な維持管理、SVHCリスト拡大に伴うサプライチェーン調査、CLPの新たな危険有害性分類に伴うラベルおよびSDSの更新対応などについて、コンプライアンス業務を「一度限りのプロジェクト」から「継続的なプロセス」へと引き上げることを推奨します。
