米国Self-GRAS制度、州政府の挑戦に直面

米国Self-GRAS制度、州政府の挑戦に直面

2026-06-03

長年にわたり、米国食品業界におけるSelf-affirmed GRAS(自己認証型GRAS、以下Self-GRAS) 制度は、米国市場へ手軽かつ迅速に参入できる方法と見なされてきました。しかし2025年から2026年にかけて、この制度は州政府レベルでの挑戦に直面しています。ニューヨーク州やカリフォルニア州が相次いで関連法案を成立させたことにより、企業の自己認証に依存した市場参入の在り方は、転換点を迎えています。

透明性の危機


現在の米国食品医薬品局(FDA)の制度には、2つのGRAS経路があります。


FDA GRAS Notification(FDA届出型GRAS)


FDAに対し安全性データを公開し、公式な「無異議書簡(No Objection Letter)」を取得する方法。


Self-affirmed GRAS(自己認証型GRAS)


企業が独自に専門家委員会を組織して安全性を評価し、FDAの審査を経ず、安全性データの公開義務もない方法。

Self-GRAS方式では、企業は専門家の評価を得た上で、FDAへの報告なしに商業販売を開始できます。そのため、業界内では「シークレットGRAS(秘密のGRAS)」 と呼ばれることもあります。現在、比較的立法権限の高い州政府を中心に、「透明性の欠如」を理由に、このGRAS経路を州レベルでの規制改革の対象としています。

州レベルでの立法動向

ニューヨーク州


2026年4月21日、ニューヨーク州議会は画期的な「食品安全・化学物質開示法案(Food Safety and Chemical Disclosure Act)」を可決しました。

現在、この法案は州知事の署名待ちの段階にあります。知事が署名して成立すれば、署名日から1年後に正式に発効します。この法案は、米国で初めてSelf-GRASを直接的に規制対象とした州法と見なされています。


法案の主な内容は以下のとおりです。

  • 情報開示の義務化:ニューヨーク州で食品・飲料を販売する企業は、Self-GRASによって安全性が確認された成分を州政府に届け出なければなりません。

  • 情報の公開:当該成分がFDAに届出されていない場合、企業は州政府に対し、毒性データを含む安全性評価報告書を開示する義務を負います。


カリフォルニア州


カリフォルニア州では、既に施行されているAB 418禁止リストに加え、2026年に新たに提出されたAB 2034法案が、より強い規制の方向性を示しています。


この法案は、1958年以降に導入され、かつFDAの審査を受けていない成分について、カリフォルニア州公衆衛生局(CDPH)に対して、完全な安全性証拠およびGRASを裏付ける資料を提出することを義務付ける内容です。


現時点でAB 2034法案は依然として立法過程にありますが、すでにカリフォルニア州議会の健康委員会および環境安全・有毒物質委員会を通過しており、現在は予算委員会での審議を待っている段階です。


ニュージャージー州とペンシルベニア州の動き


ニューヨーク州やカリフォルニア州以外にも、ニュージャージー州やペンシルベニア州では、州レベルの公開データベースの構築が始まっています。これにより、企業による秘密の安全性認定の余地を縮小し、食品化学物質の透明性を高めることを目的としています。

日本企業への実践的なコンプライアンス戦略提案


米国市場へ輸出を行う企業(例:新型菌株、精密発酵タンパク質、合成生物学由来原料、および完成品を扱う企業)に向けて、以下の4つの戦略を提案します。


コンプライアンス経路の格上げ


主力原料については、可能な限りFDA GRAS Notification(GRN)経路を選択し、FDA公式の「無異議書簡」を取得することをお勧めします。この方法により、将来の州レベルでの審査や連邦規制の変更リスクを最大限に回避できます。


資料の整備


当面はSelf-GRAS経路を検討する場合でも、技術力が高く信頼できる第三者機関に依頼することが重要です。特に、遺伝子組換え微生物(GMM)由来の原料については、毒理学的証拠と特性解析データの論理的整合性を徹底し、データと申請書類が将来的に州政府などの第三者監査に耐えうるようにしておく必要があります。


自主的な「ギャップ分析」の実施


既にSelf-GRASを取得している企業は、ニューヨーク州やカリフォルニア州などでの規制強化に伴い、既存製品の配合内容やコンプライアンス書類を今一度見直し、同州における情報開示リスクを事前に評価することをお勧めします。


米国のSelf-GRAS制度が直ちに廃止されることはありません。しかし、州政府や食品業界において、「安全性情報の透明性」を求める声はますます高まっており、実際に州レベルでの実質的な立法が進んでいることは明らかです。


長期的に米国市場への展開を計画している企業にとって、重要なのは「現時点で合法かどうか」ではなく、「その安全性データが、将来の強化された規制当局の審査に耐えうるかどうか」 です。

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