こうした背景から、新規化学物質コンプライアンス分野に長年存在しながら農薬企業が見落としがちな制度オプション 、すなわち「中国現有化学物質名録」(以下「IECSC」)への追加登録申請制度が、一部の既存農薬に関するコンプライアンスリスクを解消する有効な手段として注目されています。
「2003年以前」の既存物質に関する追加登録制度とは
この追加登録ルートは、今回の改正で新設された制度ではありません。中国の新規化学物質環境管理制度において、過去から残る問題を解決するために従来から設けられている制度です。
2003年10月15日は、中国初の「新規化学物質環境管理弁法」(旧国家環境保護総局令第17号)が正式に施行された日です。この日以前に中国国内で合法的に生産・輸入され、現在も市場で流通している化学物質は、法的には「新規化学物質」ではなく「既存化学物質」に該当します。
客観的な事実を尊重する観点から、現行の「新規化学物質環境管理登記弁法」(生態環境部令第12号)では、企業が該当する過去の証明資料を提出し、条件を満たすものの名録に未掲載の物質について、IECSCへの追加登録を申請することが認められています。追加登録が認められると、当該物質は「既存化学物質」として扱われ、新規化学物質の登記義務が適用除外となります。
REACH24H としては、今回の関連法令改正後も本制度が存続すると予測しています。企業は、今後公表されるガイドラインの具体的な規定にも注意する必要があります。
なぜこの制度が既存農薬にとって特に重要なのか
現行制度では、農薬原体などが免除対象となっているため、多くの企業が自社物質のIECSC収載状況を積極的に確認してきませんでした。今後、免除範囲が見直された場合、追加登録制度の重要性は一層高まります。
最大のメリットは、長年使用されてきた品目のコンプライアンスを低コストで確保できる点です。中国には、研究開発、登録および商業利用の開始が2003年より大幅に早い、定番の農薬有効成分や製剤補助剤が少なくありません。これらの既存品目について、新規化学物質と同様の基準で改めて物理化学試験、毒性試験、生態毒性試験を実施するには莫大な試験コストがかかる上、毒性が高い等の要因によりコンプライアンス適合が不可能となるリスクも生じます。
追加登録申請は、こうした製品に低コストかつ効率的なコンプライアンス対応ルートを残すものです。
一部の既存物質リスト(上位50物質)
中国農薬登録データベースに基づき、REACH24Hは、2009年以前に登録されているものの、IECSC公開リストには未収載である一部の農薬有効成分を体系的に整理し、関連企業が確認・照合できるよう一覧化しました。

上記はリストの一部です。
REACH24Hでは現在、180種類を超える農薬有効成分を整理しています。
対象は、2009年以前に登録されているものの、IECSC公開リストに未収載の物質です。
紙面の都合により、すべての物質は掲載していません。
個別評価をご希望の場合は、いつでもお問い合わせください。
農薬企業が講じるべき対応
まず、自社に関連する物質のIECSC収載状況を確認したうえで、既存農薬の品目について過去の社内記録を精査し、2003年10月15日以前に自社が製造または輸入した農薬有効成分および主要な補助剤を確認する必要があります。
また、当該物質が当時中国国内で合法的に流通していたことを証明できる客観的資料を積極的に収集してください。REACH24Hが長年にわたりIECSCへの追加登録を支援してきた経験に基づくと、推奨される証明資料には以下のものが含まれます。ただし、これらに限定されません。
製造に関する証明資料:対象物質との関連性に関する説明書、製造記録、原材料のインボイス(発票)、出荷申請書、出庫伝票、販売インボイス(発票)、製造工程図
輸入に関する証明資料:通関書類、販売インボイス(発票)
その他の証明資料:農薬登録証、年鑑資料、行政当局の文書、業界統計資料、公開文献
一方、追加登録の成果は業界全体で共有されますが、過去の証拠を収集することは容易ではありません。1社だけで対応すると、「証拠のつながりが不十分」という問題に直面する可能性があります。
このため、企業が共同で証拠を収集し、連携して申請することも推奨されます。業界で広く使用される農薬有効成分や汎用補助剤については、川上・川下企業や同業企業が連携して対応することが有効です。ある企業が2002年当時のインボイスを保管している一方、別の企業が当時の登録証を保有している場合があります。各社が保有する過去の証明資料を組み合わせて証拠の「パズル」を完成させることで、追加登録が認められる可能性を大幅に高め、関係企業全体に利益をもたらすことができます。
IECSC 追加登録制度は過去の事実を尊重して設置された有益な制度です。農薬企業は早急に製品ラインナップを整理し、本制度を適切に活用することで、長期的に競争力のある品目のコンプライアンス基盤を安定的に構築することが推奨されます。
