中国の新規化学農薬原体に関する生態毒性資料要求の改訂案と中・欧・米比較

中国の新規化学農薬原体に関する生態毒性資料要求の改訂案と中・欧・米比較

2026-11-02

2026年7月31日、中国農業農村部(MARA)作物生産管理司は、「農薬登録資料要求」の改訂案について意見募集を開始しました。2017年の現行要件と比べ、改訂案では新化学農薬原体に関する鳥類、水生生物、底生生物および土壌生物の資料要件が見直され、長期リスク評価における繁殖・慢性影響資料の比重が高まっています。今回公表された内容は意見募集段階の案であり、最終文書および運用方針は、今後のMARAの正式文書と農薬検定所(ICAMA)による追加説明に従う必要があります。

中国の農薬登録では、生態毒性と環境動態が「環境影響」資料にまとめられています。本稿では生態毒性に焦点を当て、新化学農薬原体に関する中国の新旧要件と、中国・欧州・米国の現行資料枠組みを比較します。環境動態パラメータは、生態毒性試験の要否判定に関係する範囲で取り上げます。

生態毒性資料要求の主な改訂点

資料区分2017年現行要件2026年改訂案
鳥類急性経口試験は原則1種とし、必要に応じて2種目を追加。短期給餌試験および繁殖試験を別途設定。急性経口試験を2種に変更。短期給餌試験を削除し、繁殖試験は維持。感受性種の選定方法を明確化。
水生生物ミジンコ、魚類、藻類等の基礎試験および長期試験を設定。魚類ライフサイクル試験はPEC、NOEC、生物濃縮性または残留性の組合せで判定。魚類ライフサイクル試験のトリガー条件を変更。主要代謝物試験、親化合物の免除および感受性群の判断基準を明確化。
底生生物独立した資料項目なし。底生生物の慢性毒性資料を新設し、条件に応じた試験実施を規定。
ミミズ急性試験を設定。PEC、急性LC50またはその他の慢性リスク情報に基づき繁殖試験を判断。急性試験および従来の繁殖試験トリガーを削除。殺鼠剤等を除き、原則として繁殖試験資料を提出。

注:ミミズ繁殖資料は殺鼠剤には適用されません。曝露可能性が極めて低く、その根拠が十分に示される場合は、総則に基づく免除を申請できます。改訂案で追加された活性汚泥呼吸阻害試験は、屋内衛生用農薬原体および忌避剤原体に限って適用されます。

鳥類およびミミズ試験の見直し

改訂案では、鳥類急性経口試験を2種で実施することとし、鳥類短期給餌試験を削除しました。2種間の急性毒性に2倍を超える差がある場合、繁殖試験にはより感受性の高い種を用います。

EU規則283/2013では、作用機序または哺乳類毒性資料から、反復摂取毒性が急性毒性を上回る可能性が示される場合に限り、鳥類短期給餌資料が求められます。欧州委員会が2025年に公表した改正案は、この資料項目を満たす目的で新たな試験を実施しないことを提案していますが、同案は現時点で未発効です。米国Part 158には同試験が記載されています。一方、EPAの2020年ケース別免除ガイダンスによると、定量比較が可能な119物質のうち118物質で、短期給餌リスク商は急性経口リスク商を下回りました。

2017年要件では、PECとミミズ急性LC50の関係、またはその他の慢性リスク情報に基づいて繁殖試験の要否を判断していました。改訂案は急性試験と従来のトリガー条件を削除し、殺鼠剤および十分な根拠を伴う低曝露の免除ケースを除き、原則として繁殖試験資料を提出する方針です。EUの現行資料要件もミミズ繁殖試験を中心としています。米国ではミミズ亜慢性試験法が公表されていますが、Part 158の通常の生態毒性資料一覧では、ミミズは基礎項目に含まれていません。

鳥類繁殖試験では、産卵数、卵殻、胚の生存、孵化率および幼鳥の生存などを評価します。ミミズ繁殖試験では、成体の生存・成長と幼体数を評価します。これらの評価項目は短期給餌試験や急性致死資料に比べ、長期リスク評価に直接結び付けやすいものです。ただし、急性試験は短期曝露時の致死毒性指標を得るためのものであり、繁殖試験は継続的な曝露が繁殖過程や個体群の更新に及ぼす影響を評価するもので、両者が扱う問いは異なります。

鳥類短期給餌試験とミミズ急性試験が削除されることで、濃度設定に利用できる既存情報が減るため、繁殖試験の設計における予備試験の役割がより重要になります。鳥類では米国EPA OPPTS/OCSPP 850.2300を参考に、繁殖に関する感受性評価項目の範囲が不明な場合、約6週間の濃度範囲探索を行い、本試験の濃度および最高非致死濃度を設定できます。ミミズではOECD TG 222を参考に、2週間の濃度範囲探索を行い、広い濃度間隔で死亡を観察して本試験の範囲を決定できます。予備試験は単なる事前確認にとどめず、既存毒性データ、予測曝露および本試験の目的を踏まえて濃度範囲を設計し、本試験が無影響域または過度の致死域に偏ることを避ける必要があります。繁殖試験は期間が長いため、生態毒性およびリスク評価の経験を有する担当者が、プロジェクト初期から予備試験、本試験および関連するトリガー資料を一体的に計画することが重要です。

底生生物の慢性毒性資料を新設

改訂案では、「底生生物慢性毒性試験資料」が初めて独立項目として設定されました。殺虫剤または殺菌剤について、以下の2条件をいずれも満たす場合に適用されます。

(1) 水・底質系代謝試験において、14日目以降に少なくとも1系で底質相の総放射能が初期放射能の50%を超えること。

(2) 既存データにより、オオミジンコ、ユスリカまたはイトミミズに対する慢性EC10/NOECが0.1 mg/L未満であること。

殺虫剤ではユスリカ幼虫試験を、殺菌剤ではイトミミズ試験を実施します。

EU規則283/2013では、環境動態試験の結果または予測により、有効成分が水生底質中に蓄積する可能性が示された場合、ユスリカやイトミミズ等の底生生物に対する慢性リスク評価が求められます。米国40 CFR §158.630では、淡水および河口・海洋の全底質を対象とする急性・慢性資料がそれぞれ定められており、底質への分配、残留性、予測環境濃度および毒性結果に基づいて試験要否を判断します。中国改訂案は、底質への分配割合と慢性毒性閾値を組み合わせたトリガーを設定し、水・底質系代謝試験から底生生物の長期評価へ進む資料経路を明確化しました。

中国・欧州・米国の生態毒性資料枠組み

資料区分中国 2026年改訂案EU 現行枠組み米国 現行枠組み
鳥類急性経口試験2種。短期給餌試験を削除し、繁殖試験を維持。急性および繁殖が中心。短期給餌は特定条件でトリガー。水域・陸域を対象。短期給餌は資料表に含まれるが、個別申請で免除される場合がある。
淡水生物急性資料と、条件により実施する長期資料を併用。主要代謝物要件を明確化。急性、長期および必要な追加生物種資料を設定。淡水の急性・慢性資料の組合せが比較的包括的。
底生生物殺虫剤または殺菌剤で二つの条件を満たす場合に慢性試験を実施。底質中への蓄積が想定される場合、慢性リスクを評価することがある。Part 158は淡水および河口・海洋の全底質に関する急性・慢性資料を個別に設定し、条件に応じて実施。
ミミズおよびその他の土壌生物原則としてミミズ繁殖資料および土壌微生物資料を提出。ミミズ繁殖試験を中心とし、トビムシ、捕食性ダニ等の資料がトリガーされる場合がある。Part 158の通常資料表ではミミズは基礎項目に含まれず、個別に補足可能。
ハチ類ミツバチを評価対象とし、成蜂急性経口・接触試験、特定条件下の幼虫慢性試験、およびリスクに応じた半圃場試験を設定。蜂類曝露の可能性がある場合、急性経口・接触および慢性資料を要求。幼体曝露や亜致死影響に応じて発育等の追加研究を実施。EFSA 2023ガイダンスはマルハナバチと単独性ハチも対象とするが、関連規則の改正は未完了。Part 158ではミツバチ成蜂の急性接触、葉面残留および圃場試験を条件に応じて要求。EPA 2016年文書では成蜂・幼虫の急性、慢性および高次資料を段階的に要求できる。通常の資料要件ではマルハナバチを独立項目としていない。
河口・海洋生物独立した体系的資料の組合せはまだ設定されていない。特定条件下で関連する水生生物種を追加できる。一般的な屋外用途では、河口・海水魚、軟体動物および無脊椎動物の資料を明示。

ハチ類資料では、中国改訂案は引き続きミツバチを評価対象とし、成蜂の急性経口・接触試験、特定条件下での幼虫慢性試験およびリスクに応じた半圃場試験を設定しています。EU規則283/2013はハチ類への曝露が想定される場合、急性経口・接触および慢性資料を要求し、幼体曝露や亜致死影響に応じて発育試験等を追加します。EFSAの2023年ガイダンスはマルハナバチと単独性ハチも評価枠組みに含めていますが、対応する規則改正は完了していません。米国EPAの2016年文書では、成蜂・幼虫の急性および慢性試験を段階的に実施し、低次試験でリスクを排除できない場合は、蜂群給餌、花粉・花蜜残留、半圃場または圃場試験へ進みます。米国の通常資料要件は現在も主にミツバチを対象とし、マルハナバチを独立項目としていません。

河口・海洋生物に関する資料も、三地域の枠組みに明確な違いが見られます。米国では一般的な屋外用途の基礎資料に河口または海水魚、軟体動物および無脊椎動物が含まれ、海水魚、端脚類のミシッドシュリンプ、カキ等が試験生物となる場合があります。水生植物の高次資料では海洋珪藻も対象となり得ます。中国改訂案には現時点で塩水・淡水を区分した同様の資料セットがなく、EU型のトビムシ、捕食性ダニ等のその他の土壌動物や、独立した非標的陸生植物資料群も設定されていません。

農薬登録における主な論点

1. 魚類ライフサイクル試験のトリガー条件変更

魚類ライフサイクル試験は、生態毒性資料と環境動態・曝露評価の連動を示す例です。2017年の現行要件では、以下の2条件をともに満たす場合、魚類ライフサイクル試験資料の提出が求められていました。

  • 予測環境濃度(PECtwa)が魚類初期生活段階試験の無影響濃度(NOEC)の0.1倍を超えること。

  • 生物濃縮係数(BCF)が1,000を超えること、または水中・底質中で安定であること(水・底質系のDegT90が100日を超えること)。

改訂案では、以下のいずれかを満たす場合に提出が必要となります。

  • 生物濃縮係数(BCF)が1,000を超えること。

  • 原体が水中または底質中で安定(DegT90が100日超)であり、かつ魚類初期生活段階に対するNOECが0.1 mg/L未満であること。

改訂前は、魚類ライフサイクル試験の要否判断に、曝露・有害性評価を統合したリスク評価、環境残留性および生物濃縮性の3側面を組み合わせていました。改訂案では、二つの条件を同時に満たす方式から、いずれか一つを満たせばよい方式に変わり、トリガーが拡大しています。また、BCFと環境残留性(DegT90)を考慮する枠組みを維持しつつ、DegT90が100日を超える原体では、PECに基づくリスク評価が従来のトリガー水準に達することを求めず、魚類初期生活段階NOECが0.1 mg/L未満であれば試験が必要となります。申請者はプロジェクト初期に、生物濃縮、環境動態および魚類慢性毒性研究を統合して計画し、後続試験を判断する必要があります。

2. 主要代謝物資料要件の明確化

水生生物の主要代謝物資料についても、明確なスクリーニングルールが示されています。魚類、ミジンコおよび水生植物について追加の主要代謝物試験が必要かどうかは、代謝物と親化合物の相対毒性、急性毒性閾値および親化合物の水中安定性により判断します。所定条件下で親化合物が速やかに加水分解し、主要代謝物について必要な試験が完了している場合、親化合物の資料免除を申請できます。また、親化合物に対する魚類、ミジンコまたは藻類のいずれかの感受性が他の群より100倍を超えて高い場合、主要代謝物試験を当該感受性群に絞ることができます。

2026年4月16日、農薬検定所は農業業界標準「農薬登録 環境リスク評価ガイドライン 第11部:農薬代謝物」の案について意見募集を行いました。同案は水生生態系、ミツバチ、カイコおよび地下水を対象とし、評価対象代謝物の選定、曝露・影響分析、リスク商による評価、必要な追加試験を段階的に進める方法を示しています。改訂案で明確化された主要代謝物資料要件について、より具体的な評価根拠を提供するものです。

3. 登録資料の準備では科学的判断がより重要に

資料要求にトリガー条件や免除条件が増えるにつれ、申請者は試験開始前に資料ギャップを分析し、試験要否を判断して研究の順序を設計するとともに、免除または未実施とする項目について十分な根拠を準備する必要があります。改訂案の考え方では、登録資料の準備はチェックリストに沿って試験を一項目ずつ実施するだけでは完結しません。製品特性、登録用途、環境曝露および既存毒性結果に基づいて、各試験がトリガーされるか、免除できるか、各研究をどのように連携させるかを判断することが必要です。

資料審査では、必要資料が揃っているかだけでなく、試験選択の科学性、研究順序の妥当性、免除根拠の十分性、各資料が構成する証拠の連鎖が科学的なリスク評価結論を支持できるかが、より重視されると考えられます。申請者はプロジェクトの早い段階から、生態毒性、環境動態およびリスク評価の経験を持つ専門家を中心に、登録戦略と試験計画を統括することが求められます。

今後の見通し

今回の改訂により、中国の新化学農薬原体に関する生態毒性資料要求は、EUおよび米国の現行枠組みにさらに近づきます。改訂案は鳥類短期給餌試験やミミズ急性試験等を整理し、繁殖・慢性影響資料の比重を高めるとともに、底生生物慢性毒性資料を新設し、主要代謝物や長期試験のトリガー条件を明確化しました。また、用途、曝露および既存毒性結果に基づき、試験の要否や免除を判断する資料が増えています。申請者にとって資料の形式的な充足は登録準備の基礎であり、トリガー条件の特定、試験順序の設計および十分な免除根拠の提示が、登録資料の科学性を左右します。

2025年、中国では新規制定または改訂されたGB/T 31270シリーズ「化学農薬 環境安全性評価試験ガイドライン」17項目が公表され、そのうち複数が生態毒性に関係しています。関連する標準の編制説明によれば、鳥類急性経口、ミジンコ急性遊泳阻害、土壌微生物等の試験法は、対応するOECD試験ガイドラインと技術内容が基本的に一致または高い類似性を有しています。これは、国内外の登録プロジェクトで試験計画を調整するための技術的基盤を強化します。

中国は現在、OECD化学物質データ相互受入(Mutual Acceptance of Data、MAD)制度に参加していません。国内試験法と品質管理体制の整備が進む中、中国のMAD参加に向けた評価を進め、段階的な参加を検討することが望まれます。各市場で必要となる補足資料を維持しながら、「共通のコア試験一式と市場ごとの必要な補足資料」から成るグローバル登録戦略を構築できれば、重複試験の削減につながり、中国発の新農薬の国際市場展開を支えることができます。

REACH24Hを選ぶ理由

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