REACHリスク管理の四重奏:CLH、SVHC、認可、制限の要点解説
2025-07-30

EU REACH(化学品の登録、評価、認可、制限)規則は、世界で最も厳格な化学物質管理システムの一つとして広く知られています。その根本的な目的は有害物質を効果的に管理し、最終的には排除することで、これらの物質が人々の健康と環境にもたらす潜在的なリスクを最大限に低減することにあります。この枠組みにおいて、化学品の登録と評価はコンプライアンスの出発点に過ぎません。高レベルの保護を確実に実現する鍵は、リスクに基づく的確な管理メカニズムにあり、これは主に調和分類・表示(CLH)、高懸念物質(SVHC)、認可(Authorisation)及び制限(Restriction)という4つの手段がが協調して作業することで相乗効果が達成されます。

調和分類・表示(CLH):リスク識別の共通言語


調和分類・表示(CLH)は、REACHリスク管理システムの土台であり、後続の措置(SVHC特定、認可、制限)に不可欠なデータサポートを提供します。通常、物質/混合物の分類・表示は企業自社が行います。しかし、特定の状況下、例えば、物質が発がん性、変異原性、生殖毒性物質(CMR 1A/1B)、呼吸器感作性物質、内分泌かく乱物質(ED)、残留性、生物蓄積性、毒性物質(PBT/vPvB)または高移動性、高残留性、高生物蓄積性物質(PMT/vPvM)であると確認された場合、あるいはEUは統一分類が必要であると判断された場合、欧州委員会はその分類を強制的に統一し、CLP規則の付属書VIおよびC&Lインベントリーに収載します。これにより、EU全域で物質の有害性に関する認識の一貫性が確保され、リスク管理措置の有効性が保証されます。


企業にとっての主要な義務は、これらの調和分類・表示を適用し、サプライチェーン全体で要件を満たした安全データシート(SDS)または拡大安全データシート(eSDS)を的確に伝達することです。これは、企業がC&Lインベントリーの更新を継続的に注目し、製品情報を適時に調整する必要があることを意味します。

高懸念物質(SVHC):高リスク物質の事前警告信号

高懸念物質(SVHC)は、REACH規則における重要なリスク管理カテゴリーであり、特に人々の健康や環境に深刻かつ不可逆的なリスクをもたらす化学品を指します。REACH規則第57条の規定に基づき、以下の種類の物質がSVHCとして特定される:

  • 発がん性、変異原性、生殖毒性物質(CMR):カテゴリー1Aまたは1Bに分類される物質、すなわちヒトに対して発がん性、変異原性または生殖毒性があると知られている、または推定される物質。

  • 残留性、生物蓄積性、毒性物質(PBT):環境中で分解されにくく、生体内で蓄積されやすく、毒性を持つ物質。

  • 高残留性、高生物蓄積性物質(vPvB):PBT物質よりもさらに分解されにくく、生物蓄積性が高い物質。

  • 同等の懸念レベルを持つ物質:上記CMR、PBT、vPvBの基準を満たさない場合でも、例えば内分泌かく乱物質のように、科学的証拠により、人々の健康や環境に深刻な影響を与える可能性がある物質。

SVHCリストは、REACH規則において、有害性の識別からより厳格な管理への移行段階を示しており、したがってSVHCの特定は認可リストへの追加の第一歩に過ぎず、規制の終点ではありません。その核心的な価値は、サプライチェーンにおける情報透明性を強制することにあります。

サプライチェーンの情報伝達義務

  • 物質や調剤中のSVHC含有量が0.1%を超える場合、REACH規則に適合したSDSを川下に伝達しなければなりません。

  • 成形品中のSVHC含有量が0.1%を超える場合、成形品を受け取る川下に対して安全な使用方法を伝える情報(少なくとも当該SVHCの名称を含む)を提供しなければなりません。消費者も同様の要求を提出することができ、供給者は45日以内に無料で関連情報を提供すべきです。

当局への届出

  • 成形品中のSVHC含有量が0.1%を超え、かつ年間輸出量が1トンを超える場合、EUの製造業者、輸入業者または唯一の代理人はECHAにSVHC届出を提出する必要があります。

  • 成形品中のSVHC含有量が単に0.1%を超える場合、EUの製造業者、輸入業者はECHAにSCIP届出を提出する必要があります。

SVHCの情報伝達と届出義務は、企業が直接的に使用する化学物質だけでなく、購入する成形品(部品、完成品など)の化学組成について深く理解することを促します。一連の措置は、サプライチェーン全体における化学物質情報の透明性を実質的に推進し、リスクが発端から識別・管理されることができ、市場全体の化学物質リスクを大きく低減させます。

認可:高リスク物質の「一時的な通行許可証」

SVHCリストに掲載された物質は定期的に評価され、より高い有害性特性を持つ物質はさらに認可管理の範囲に組み入れられます。認可メカニズムは、REACH規則の下で高リスク物質を管理するための中核的なツールであり、その根本的な目的は、これらの物質のリスクが適切に管理され、より安全な代替品に段階的に置き換えられることを確実に推進することです。認可は「許可」システムの一つと理解され、ECHAの明確な認可がなければ、特定の物質をEU市場に投入したり、特定の用途で使用したりすることはできません。

主要な時点:

最新申請日(LAD):企業はこの日までに認可申請を提出しなければ、日没日後も引き続き使用できます。

日没日(Sunset Date):物質が市場に投入/使用される最終的な期限。この日以降、認可を受けていない場合は使用が禁止されます。LADまでに申請を提出した企業は、評価期間中も引き続き使用できます。

認可申請の主要な書類:

化学品安全性報告書(CSR):リスク管理措置と運用条件を詳細に記述。

代替品分析(AoA):より安全で、技術的・経済的に実行可能な代替案が存在するかどうかを評価。

社会経済分析(SEA):継続使用による便益とリスクを比較検討し、代替案と比較。

代替計画:実行可能な代替品が存在する場合、詳細な廃止スケジュールと計画を提出。

認可は永続的な許可ではなく、「条件付きの通行許可」です。認可メカニズムの意図は、リスク管理だけでなく、段階的な廃止と代替を推進する移行的な管理ツールでもあります。これにより、短期的なリスク管理を確保しながら、長期的に、より安全な化学品への移行を促す強力な経済的および規制上のインセンティブが提供されます。

制限:リスク管理の最終防衛線


制限メカニズムは、REACH規則のリスク管理システムにおける最終防衛線であり、人々の健康や環境に「許容できないリスク」をもたらす物質を管理するために用いられます。これらのリスクがREACHの他の手続き(登録、SVHC、認可など)や既存の他のEU規制によって十分に管理できない場合、制限措置が発動されます。

付属書XVIIの制限条件は多種多様で、非常に柔軟性があり、対象を絞ったものです。完全に禁止することや、濃度制限値の設定、特定の用途の制限、さらには段階的な実施日を設けることもあります。認可の「許可制」とは異なり、制限は最も直接的な「禁止令/制限令」ですが、具体的なリスクシナリオに合わせたきめ細やかな管理措置であるため、不要な経済的影響を最小限に抑えながらリスクを最大限に低減することができます。


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まとめ

EU REACH規則は、CLH(調和分類・表示)、SVHC(高懸念物質)、認可、制限の段階的なプロセスを通じて、精密なリスク階層管理システムを構築しています。CLHとSVHCは、危害の識別と情報伝達のツールとして、情報の透明化とリスクの事前警告のための基盤を築きます。一方、認可と制限はリスク管理の手段として、異なるリスクレベルと性質を持つ化学品に対して最も適切かつ効果的な措置を確実に講じることを保証します。この階層管理システムにより、REACHは規制資源を効率的に分配し、最もリスクの高い物質に最も厳格な規制措置を集中させるとともに、すべての化学品が適切にリスク管理されることを確保し、企業に明確な順守経路と予見可能性を提供しています。

  • 危害の程度が低い、またはリスクが管理可能な物質に対しては、CLHを通じて情報の透明化を図ります。

  • 危害は高いものの、まだ認可のレベルには達していない物質に対しては、SVHCリストを通じて事前警告と情報開示を行います。

  • 危害が高く、かつ代替の困難な物質に対しては、認可を通じて厳格な管理を行います。

  • リスクが許容できず、他の方法で管理できない物質に対しては、制限を通じて直接的な禁止または厳格な制限を行います。 

REACHは、理論と実践の両面で化学品管理分野において大きな一歩を踏み出し、世界の化学品管理に良い基盤を築きました。しかし、人々の健康と環境保護という偉大な目標とEU産業の経済的競争力とイノベーションを維持することとの間で微妙なバランスをいかに取ることは、依然として将来の改革における核心的な課題となっています。将来のREACH改革の目標には、認可プロセスの簡素化、「一般的な用途」の概念導入、デジタル化の推進と執行の強化といった措置が含まれる予定であり、これらは健康と環境保護のさらなる強化を目指しつつ、企業の行政負担を軽減し、効率と予見可能性を高めることを目指しています。

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