徹底解説|グローバルなPOPs規制の核心要点:ストックホルム条約からEU POPs規則まで
2025-07-21

私たちの日常生活で、一見無害に見える一部の化学物質が、環境と健康に甚大なリスクがあります。これらの物質は分解されにくく、生物の体内に蓄積し、食物連鎖を通じて濃縮されるため、人間の健康と生態系に長期的な脅威をもたらします。これらは「残留性有機汚染物質(Persistent Organic Pollutants, POPs)」と呼ばれています。


このグローバルな課題に対処するため、「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」(以下、「ストックホルム条約」という。)が誕生しました。

「ストックホルム条約」:グローバルな化学物質「廃絶」条約


2001年、「ストックホルム条約」はスウェーデンのストックホルムで開催された外交会議で正式に採択され、当初の128の締約国によって署名され、2004年に正式に発効しました。これは、POPsの有害性から人の健康と環境を保護することを目的とした国際条約です。その核心的な目標は、POPsの生産と使用を廃絶または制限し、非意図的な放出を削減することにあります。


条約は当初DDT、ポリ塩化ビフェニル(PCBs)など12種のPOPsがリストに掲載されました。科学研究の深化に伴い、条約の付属書は継続的に更新され、より多くのPOPs特性を持つ化学物質が追加されています。


2025年7月まで、すでに37種の物質がPOPsとして認定され、「ストックホルム条約」の規制対象となっています。


条約の核心は、3つの付属書リストにあります。これらは3つの防衛線のように、異なるPOPsを分類管理し、締約国に明確な法的義務を課しています。

  • 付属書A - 廃絶 (Elimination)

付属書Aに掲載された化学物質は廃絶されなければなりません。すなわち、締約国は、特定の例外状況(実験室規模の研究など)を除き、その一切の生産と使用を停止する措置を講じる必要があります。


代表的な物質:アルドリン(Aldrin)、ディルドリン(Dieldrin)、エンドリン(Endrin)、ポリ塩化ビフェニル(Endrin)、DDT、ヘキサクロロブタジエン(HCBD)、短鎖塩素化パラフィン(SCCPs)など。

  • 付属書B - 制限 (Restriction)

付属書Bに掲載された化学物質は、その生産と使用が厳しく制限されます。条約は特定の許容される用途においてその存在を認めていますが、締約国は環境への放出を防ぐ措置を講じる必要があります。

代表的な物質:ペルフルオロオクタンスルホン酸およびその誘導体(PFOS)は、付属書Bにおける主要な物質です。PFOSはその主な用途が禁止されていますが、特定の重要な分野(特定のフォトリソグラフィプロセス、金属めっきなど)では免除されています。

  • 付属書C - 非意図的生成 (Unintentional Production)

工業プロセスにおいて非意図的に副産物として生成される物質(ダイオキシン類など)に対し、その放出を継続的に削減し、できるだけ最終的に廃絶するための措置を講じることを求めています。

代表的な物質:ポリ塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン(PCDDs)、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDFs)、ポリ塩化ビフェニル(PCBs)、ヘキサクロロベンゼン(HCB)

「EU POPs規則」:より厳格で包括的な地方的実践


「ストックホルム条約」がグローバルな指針であるとすれば、EUの規則 (EU) 2019/1021(以下、「EU POPs規則」という。)は、EUがそれを強制力のある域内法規として具体化したものであり、EUが国際的な約束を履行するための核心的な手段です。


この規則は、条約の管理対象物質リストを完全に引き継ぐだけでなく、一部の分野では条約よりも厳格な基準が設定され、関連物質の廃絶を加速するための実施スケジューが定められています。


EU POPs規則の付属書構造は条約と類似していますが、内容はより詳細です。

  • 付属書I - 禁止 (Prohibition)

付属書Iは、条約の付属書AとBに対応し、生産、市場投入、および使用が禁止されているすべての物質をリストアップしています。 特筆すべきは、EUが「ストックホルム条約」の付属書B(制限)に掲載されている物質(PFOSなど)が直接的に規則の付属書Iに含め、極めて限定的で特定の条件が付いた免除状況を詳細に挙げられている点です。これは、EUのより厳格な管理基準を反映しています。この付属書はまた、製品中の非意図的微量汚染物質(UTC)の含有量制限値も定めており、具体的な執行の重要な根拠となります。

  • 付属書II - 制限 (Restriction)

付属書IIは現在まだ空白です。制限が必要な物質は、その免除条項とともに付属書Iに統合されており、より統一的で明確な管理が実現可能です。

付属書III - 非意図的発生および放出削減の対象物質リスト (List of substances subject to release reduction provisions)

条約の付属書Cに完全に相当し、ダイオキシン、フラン、PCBsなど、非意図的な放出を管理する必要がある物質がリストアップされています。また、加盟国に対し、これらの物質の放出を最大限に削減するための行動計画を策定・実行するよう求めています。

  • 付属書IV - 廃棄物管理 (Waste Management)

EU規則の重要な補足であり、上記の3つの付属書に掲載されたPOPsを含む廃棄物に対し、具体的な濃度制限値が設定されています。 廃棄物中のPOPs含有量が限度値を超える場合、それを破壊または不可逆的に変換する方法で処分することが義務付けられています。リサイクルや埋め立て処分は厳禁であり、POPsが廃棄物の循環を通じて環境に再流入する経路を断ち切ることを目指しています。

将来の展望:まもなくリストに追加される物質


POPsのリストは不変ではありません。科学研究の深化に伴い、POPs特性を持つ新しい化学物質が継続的に特定されています。

2025年5月に開催された「ストックホルム条約」第12回締約国会議(COP-12)では、クロルピリホス(Chlorpyrifos)、中鎖塩素化パラフィン(MCCPs)および長鎖ペルフルオロカルボン酸(LC-PFCAs)が付属書Aに正式に追加されました。これらの物質は、正式にEU POPs規則に組み込まれるプロセスにあります。


現在、国連POPs審査委員会(POPRC)は新たな化学物質を審査日程に載せています。これらの物質は評価の各段階にあり、将来条約に追加される可能性のある「候補物質」です。


  • ポリ臭素化ジベンゾパラジオキシン (PBDDs)ダイオキシン類(PCDDs)と同様に、極めて有毒で残留性のある汚染物質と見なされています。主に、臭素を含む材料(一部の難燃剤など)の燃焼時に非意図的に生成されます。

  • ポリ臭素化ジベンゾフラン(PBDFs):(塩素化)フラン(PCDFs)と似ており、燃焼時に生成されるだけでなく、市販の臭素化難燃剤製品中の不純物として存在することが多いです。

  • 臭素化塩素化ダイオキシン類及びジベンゾフラン類 (PBCDDs/PBDFs):分子構造に臭素原子と塩素原子の両方を持つダイオキシンとフランです。臭素を含む電子廃棄物と塩素を含むPVCプラスチックなど、異なる種類の廃棄物が一緒に焼却される際に、非意図的にこれらの劇毒物質が生成されやすくなります。


上記の物質が「ストックホルム条約」に正式に組み込まれれば、EUは迅速に内部の立法手続きを開始し、これらをEU POPs規則の付属書に追加し、相応の制限値と管理措置を策定するでしょう。

最後に


「ストックホルム条約」がグローバルなPOPsの「ブラックリスト」であるのに対し、「EU POPs規則」は「ストックホルム条約」を実施するための重要な法規です。EUが常に「先駆者」の役割を担う状況では、規則の制限物質リストは条約よりも広範で、制限値の要求もより厳しい可能性があります。


法規の付属書は、科学者や立法者の作業文書であるだけでなく、グローバルな貿易、工業生産サプライチェーン、そして消費者の安全に密接に関連しています。


これらのリストの変化を理解し、特に追加される予定の新物質に注目することは、企業が事前に対策を講じ、より安全な代替品を開発し、社会全体を無毒で持続可能な未来へと推進するために役立ちます。


REACH24Hの関連サービス

  • 「EU POPs規則」コンプライアンス分析サービス

  • カスタマイズされた法規追跡および事前警告サービス

  • 法規リスト照会(正式管理物質/提案段階物質)

  • 規則に関するコンサルティングおよび研修サービス

規制に関する詳細については、お問い合わせください。
お問い合わせフォーム