作業現場のアスベスト暴露限度の大幅引き下げ
2022年9月28日、欧州委員会は、アスベストから人々と環境を保護し、アスベストの無い未来を確保するための包括的なアプローチを提示しました。アスベストは、非常に危険で、発ガン性のある物質であり、現在でも多くの建物に存在し、EUにおける回避可能な多くの死亡の原因となっています。欧州委員会は、アスベストによる疾病の診断と治療の改善から、アスベストの特定、安全な除去及び廃棄物処理に至るまで、包括的にアスベストに取り組むとしています。この提案は、欧州の「がん撲滅計画」の予防の柱の一部であり、欧州グリーンディール、ゼロ公害アクションプラン、「欧州の社会権の柱」の目標に貢献するものになります。
★2022年10月06日続報:欧州委員会が、指令案の意見募集を開始
本提案の目的
2005年以降、EUではあらゆる種類のアスベストが禁止されていますが、古い建物にはアスベストが残っており、EU加盟国における職業性がんの78%がアスベストと関連していると言われています。空気中のアスベスト繊維を吸い込むと、中皮腫や肺がんなどに繋がる可能性があり、曝露してから病気の兆候が現れるまでに平均30年のタイムラグがあると言われています。したがって、アスベストへの暴露による健康リスクに対処することは、人々の健康と環境を保護し、適切な生活・労働条件を確保するために不可欠になります。このことは、グリーントランスフォーメーション※と、建物のリノベーション率を高めるというEUの目標において、さらに重要な意味を持ちます。但し、リノベーションは、居住者の健康状態や生活環境を改善し、エネルギー料金の削減にもつながりますが、建設労働者にとっては、アスベストにさらされる危険性が高まります。本日提案された行動は、欧州の「がん撲滅計画」の予防の柱の一部であり、欧州グリーンディール、ゼロ公害アクションプラン、「欧州の社会権の柱」の目標に貢献するものとされています。
グリーントランスフォーメーション※:CO2等の温室効果ガスを排出させない再生可能エネルギーなどのグリーンエネルギーに転換することを通して、地球環境及び社会や経済の構造を変革させること
背景
本日の声明で提示された行動は、2021年10月20日の欧州議会のアスベストからの労働者の保護に関する決議を追認するものです。これは、フォンデアライエン議長の政治指針における、比例性、補完性、より良い法整備の原則を十分に尊重し、TFEU第225条に基づく決議に適切に対応するというコミットメントに沿うものです。
アスベストのような発ガン性物質への曝露を効果的に減らすことは、欧州委員会の「がんに勝つ」計画と「ゼロ公害」行動計画の一部になります。2022年の作業計画と2021~2027年の労働における健康と安全に関するEU戦略的枠組みにおいて、欧州委員会は、アスベストに対する現行の職業性暴露限度を引き下げる提案を発表し、「欧州の将来に関する会議」の枠組みにおいて、職場におけるアスベスト指令の改正の重要性を強調しました。本日の提案は、科学者、労働者、雇用者、加盟国の代表者との緊密な協力のもと、広範な協議プロセスを経た結果となります。
委員会メンバーの発言
ニコラ・シュミット雇用・社会権担当委員は、「昨年、我々は欧州議会において、労働者をアスベストから保護することに関する報告書に記載されている重要な行動要請を取り上げることを約束した。それから1年、欧州委員会は、労働者の保護を強化するだけでなく、アスベストの無い欧州に向けた大きな一歩となる一連の施策を提示する。」と述べ、改正指令案は、労働者の暴露レベルを大幅に低減し、雇用者にトレーニングと指導を提供するものであることを強調しました。
ステラ・キリアキデス健康・食品安全担当委員は、「予防は、がんに対するどのような治療よりも効果的である。がんの40%は予防可能であり、予防は最も効率的な長期的戦略である。欧州のがん撲滅計画の一環として、我々は有害物質(アスベストもその一つ)への曝露を減らすことにより、がんの予防に大きく貢献することを目指している。本日の提案は、我々の「がん克服計画」のもう一つの重要な成果であり、強力な欧州保健連合を構築するための我々の活動の新たな一歩となる。」と述べています。
具体的なアプローチ
労働者はアスベストの暴露による最大のリスクにさらされており、彼らの保護を強化するために、欧州委員会は本日、「職場におけるアスベスト指令」の改正案を提示しました。これには、最新の科学技術の発展に基づき、作業現場におけるアスベストの暴露限度を現在の値の1/10(0.1 f/cm³から0.01 f/cm³)に引き下げることが含まれています。健康予防と治療における意識向上やその他の改善とともに、本提案は、がんを克服するというEUの目標に近づくものであり、域内で活動する企業にとって公平な競争の場を作り出し、医療に関わるコストを削減することにも繋がります。欧州委員会は、すべてのEU機関、加盟国、ソーシャルパートナー及びその他の利害関係者に対し、現在及び将来の世代のためにアスベストのないEUを実現するための行動を加速させるよう要請するとしています。欧州委員会が提案した同指令の改正案は、欧州議会及び加盟国によって審議され、欧州委員会は迅速な承認を求めています。採択された場合、加盟国は2年以内に同指令を国内法に移行していくことになります。
また、欧州委員会は以下の活動等も併せて進めていく予定です。
■ EU建設・解体廃棄物管理議定書、及び建物の解体・改築工事前の廃棄物監査に関するガイドラインを 改訂する。
■ アスベストの廃棄物管理方法と新しい処理技術を特定するための調査を開始する。
■ 復興・再興基金、欧州社会基金プラス、欧州地域開発基金を通じて、健康予防、治療、改修、安全なアスベスト除去における加盟国への支援を継続する。
質問と回答-アスベストの無い未来へ向けて
本提案に関する質問と回答の一部を以下に示します。
1.アスベストとは何か、なぜアスベストから守る必要があるのでしょうか?
アスベストは、がんやその他の病気を引き起こす可能性のある非常に危険な物質です。アスベストへの環境及び職業上の暴露は、がんの高い負担につながることが知られており、回避可能な多くの死亡を引き起こしています。EUで職業性がんとして認識されているがんの78%は、アスベストに関連し、2019年だけでも、EUでは7万人以上の労働者が過去のアスベストへの曝露により死亡しています。最初のアスベスト曝露から病気の兆候が現れるまでの平均期間は約30年であるため、アスベストへの曝露に起因する健康リスクに対処することは、欧州の「がん撲滅計画」に基づくアクションの一部となります。
2005年以降、EUではアスベストの使用が全面的に禁止されています。しかし、禁止される以前に建てられた建物は2億2千万棟以上あり、現在の建物のかなりの部分がアスベストを含んでいる可能性があります。今後、かなりの数の改築や取り壊しが予想され、これらの改修は消費者の健康状態や生活環境を改善し、エネルギー料金の削減に繋がる一方で、建設業に従事する人々にとっては、改修工事中にアスベストに暴露される危険性が増大します。
これらの理由から、欧州委員会のコミュニケーションは、健康上の処置や予防から、建物内のアスベストの特定や安全な除去、廃棄物処理まで、包括的にアスベストに取り組んでいます。
2.EUでは現在、アスベストに対してどのように人や環境を保護しているのでしょうか?
過去40年間、EUはアスベストを制限し、そして禁止する措置をとってきました。1983年から1985年にかけて、EUは6種類のアスベスト繊維の使用を制限しました。1999年には6種類すべてのアスベストを禁止し、2005年にはEUで生産された商品とEUに輸入された商品の両方に対してEUアスベスト禁止令が施行されました。
労働者をアスベストへの曝露から保護する最新のEU法は、保護、計画、訓練の面で雇用者に厳しい義務を課す2009/148/EC(労働におけるアスベストに関する指令)です。本日、欧州委員会は、アスベストに対する職業上の暴露限度をさらに厳しくし、労働者の保護をさらに強化するために、職場におけるアスベスト指令の改正を提案しています。職場における労働者の安全と健康の主要原則を定めた包括的な「労働安全衛生枠組み指令」と、職場における発ガン物質がもたらすリスクに特化した「発ガン物質、変異原物質及び生殖毒性物質指令」は、アスベスト暴露のリスクから労働者を保護するための追加保護策を提供しています。
スクリーニングと早期診断への投資は、欧州の「がん撲滅計画」と欧州保健連合の構築に沿った、がんを含むアスベスト関連疾患の影響を軽減するため、アスベスト曝露の被害者を大幅に支援することができます。2021年2月に採択された「キャンサー・プラン」は、がんを予防し、がん患者、生存者、その家族、介護者が高水準の診断、治療、高いQOLを享受できるようにすることを目的としています。EUが支援するがん検診制度を打ち出す「キャンサー・プラン・フラッグシップ」の一環として、欧州委員会は最近、組織的検診を肺がんにも拡大することを含む、EUにおけるがん検診に関する新しい勧告を発表しました。この制度は、新しい検診方法とアルゴリズムの開発を促進することを目的とした「欧州がん画像診断イニシアチブ」によって支援される予定になっています。
参考
■ Commission acts to better protect people from asbestos and ensure an asbestos-free future
■ Questions and Answers: Towards an asbestos-free future
■ 意見募集/欧州委員会
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