米国|長年のGRAS制度の抜本的見直しを指示、食品成分の自己認定制度を廃止へ
2025-03-17

 2025年3月10日、アメリカ合衆国保健福祉省(United States Department of Health and Human Services、略称: HHS)のRobert F. Kennedy Jr.長官は、食品医薬品局(FDA)に対し、自己認定型「一般に安全と認識される(GRAS)」制度の廃止に向けた規則策定の検討を指示しました。長年にわたり、食品メーカーはFDAに通知することなく独自に新規成分の安全性を判断できる仕組みとなっており、これが透明性や監督の欠如につながるとの懸念が指摘されてきました。

 自己認定型GRAS制度が廃止されると、新たに食品成分を導入する企業は、FDAへ公的な通知を行うことのみが認められ、安全性データの提出が義務付けられることになります。

一般に安全と認識される(GRAS)とは

 GRAS(Generally Recognized As Safe)」とは、食品成分の安全性に関する特別な認定制度で米国連邦食品・医薬品・化粧品法Federal Food, Drug, and Cosmetic Act、略称: FFDCA、FDCA、FD&C)によれば、食品に添加される物質は食品添加物とみなされ、事前にFDAの審査を受ける必要があります。ただし、専門家でその使用が安全であると認識されている場合、当該物質はGRASとして分類され、審査プロセスを経ることなく使用可能となります

 現行のGRAS認定には、以下の2つの方法が存在する。

  1. 自己認定型GRAS(Self-Affirmed GRAS): 企業が独自に安全性を判断し、FDAへの通知を行わない。

  2. FDA通知型GRAS(FDA-Notified GRAS): 企業がFDAへGRAS通知を提出し、審査および公的記録として登録される。

項目

自己認定型GRAS

FDA通知型GRAS

プロセス

  1. 申請対象の物質について公的な安全性文献を収集。公的な文献が不足している場合、毒性試験などの必要な研究を実施(6〜24か月)。

  2. 物質の安全性に関する公的文献を公開(十分な文献がある場合、省略可)。

  3. 書類の準備・作成(3〜6か月)。

  4. 専門家が自己認定声明を発行(3〜4か月)。

  1. 申請対象の物質について公的な安全性文献を収集。公的な文献が不足している場合、毒性試験などの必要な研究を実施(6〜24か月)。

  2. 物質の安全性に関する公的文献を公開(十分な文献がある場合、省略可)。

  3. 書類の準備・作成(3〜6か月)。

  4. 専門家が自己認定声明を発行(3〜4か月)。

  5. FDAへ提出し、審査を受ける(6〜9か月)。

FDAの関与

なし

あり

提出義務

なし

あり

公的記録への掲載

なし

あり

法的リスク

高(企業が全責任を負う)

低(FDAの審査あり)

審査期間

社内審査後すぐ使用可能

FDAの審査に6か月以上

  2025年3月13日時点で、FDAのGRAS通知公式サイトには1,219件の物質が掲載されています。そのうち、中国企業からの通知は87件、日本企業からの通知は84件、韓国企業からの通知は32件となっています。

自己認定型GRAS廃止の影響

 自己認定型GRAS制度の廃止は、米国の食品規制における大きな変化を意味します。規制強化による透明性と消費者安全性の向上が期待される一方で、企業にとってはコスト増加審査遅延規制の不確実性などの課題も発生する可能性があります。

1. 企業の独自情報の開示リスク

 事業者は、新規成分の使用前にFDAへ安全性データを提出する必要があり、より高い透明性が求められます。一方で、企業はより詳細な安全性情報を開示する義務を負うことになり、独自の情報が公開される可能性があります。

2. イノベーションの鈍化と市場投入の遅延

 発酵食品や培養食品を開発するスタートアップ企業は、より厳しい規制のハードルに直面し、イノベーションの進展が妨げられる可能性があります。自己認定型GRASが廃止されると、食品添加物をGRASとして認めてもらう唯一の手段はFDAにGRAS通知を提出することになります。企業が市場投入前にFDAからの回答を得ることを希望する場合、評価プロセスが数か月から数年に及ぶ可能性があり、市場参入の遅延につながることが懸念されます。

3. 企業のコンプライアンスコストの増加

 規制強化に伴い、追加の毒性試験や安全性評価が必要となる可能性があります。特に中小企業にとっては、従来の自己認定型GRASに比べて負担が大きくなることが予想されます。

4. FDAの業務負担の増大と審査の遅延

 FDAのリソースは限られており、現在でも年間約75件のGRAS申請しか審査できていません。審査期間は通常6~12か月ですが、今後の申請増加により審査遅延が発生する可能性があります。

5. 既存の自己認定型GRAS製品への影響不明確

 すでに自己認定型GRASとして市場に出ている製品が再評価の対象となるかどうかは、現時点では不明です。事業者は移行期間や遡及適用の可能性に備える必要があります。

6. 一部業界への影響は限定的

 すでにFDAとUSDAの二重規制を受けている培養肉業界などでは、大きな影響はないと考えられます。一方で、自己認定型GRASに依存している業界は、今後の規制方針に対応する必要があります。

REACH24Hによる法規対応ヒント

 この規制変更に備え、事業者は自社の成分適合性と規制戦略を見直すことが重要です。過去に自己認定したGRAS成分のステータスを確認し、サプライヤーと連携して安全性データを検証するとともに、最新の規制動向を把握する必要があります。また、FDAの規則策定プロセスを継続的に監視し、パブリックコメントへの参加や州レベルの成分規制の動向も注視することを推奨します。

REACH24Hのサービス

REACH24Hは、食品企業向けに、GRAS制度の変化に対応するための専門的なコンサルティングを提供しております。

  • GRAS認証コンサルティング & トレーニング: GRAS規制とコンプライアンス戦略に関する専門的なアドバイス。

  • 自己認定GRASサポート: 安全性評価の実施および専門家委員会の組織。

  • FDA通知GRASサポート: GRAS通知の準備およびFDA提出の支援。

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