GRAS (Generally Recognized As Safe、即ち「公認安全」) は、米国食品医薬品局 (FDA) が定めた食品物質の安全分類です。これは、専門家の意見が一致し、意図された使用条件下で安全であると認められた物質を指します。
現在、米国GRAS認証は、GRASの自社適合声明(Self-affirmed GRAS)とFDAにGRAS認証の届出(FDA notified GRAS)の2つの法規対応経路が存在する。
適格な専門家が、物質の安全性について評価を行ったうえで、会社様はGRAS適合声明書を発行し、サプライチェーンの川下に提供します。 この方法はFDAに届出されず、公開されません。
届出はFDAに提出され、FDAによる正式な審査と承認を経てGRASリストに掲載され、FDAの公式ウェブサイトで入手可能です。
いずれかの経路で GRAS 認証を取得した物質は、米国市場で合法的に販売することができます。
米国におけるプロバイオティクス法規対応の要点
プロバイオティクスは、腸内フローラのバランスを整え、免疫力を向上させるなどの機能を持つ生きた微生物であり、食品産業において幅広い応用価値を示しています。
しかし、米国の現行法規体系では、「プロバイオティクス」という独立した管理カテゴリーは設けられていません。その管理メカニズムは、製品の機能的位置づけに基づいて分類管理が実施されます。
プロバイオティクスを一般食品に使用する場合:
関連法規の一般食品安全基準を満たす必要があります。新しい成分に所属する場合は、食品添加物申請(Food Additive Petitions, FAP)またはGRAS認証を完了する必要があります。
プロバイオティクスを栄養補助食品に使用する場合:
関連法規の栄養補助食品の成分定義に適合する必要があります。新しい成分に所属する場合は、新規栄養補助食品成分通知(New Dietary Ingredients Notification, NDIN)の経路を選択することもでき、一般食品の新規成分の経路(FAPおよびGRAS)を踏襲することも可能です。
グローバルなプロバイオティクス産業の発展という視点で見ると、FDA GRASはプロバイオティクスの市場での認知度と安全性を測る重要な指標となっています。
今までに、76件のプロバイオティクスに関する申請がFDAから「異議なし」書簡を受領しており、この数字は世界のプロバイオティクスの広大な市場の見通しを反映しています。この76件の公開データに基づき、REACH24Hは、FDAの承認を得たこれらのプロバイオティクスについて包括的な整理を行いました。
激増するプロバイオティクスのFDA GRAS認証
2002年に最初のプロバイオティクス関連書類がFDAから「異議なし」書簡を受領して以来、FDA GRAS認証を取得するプロバイオティクスの数は増加し続けています。REACH24Hは、2002年から今までのFDA GRAS認証を取得したプロバイオティクスの数を整理しました。

プロバイオティクスのFDA GRAS認証取得数
* FDAの公式ウェブサイトにおけるGRAS公示の更新が遅れているため、2024年および2025年のデータはまだ不完全です。
この統計データから明らかにするように、2018年前は毎年承認されるプロバイオティクス数は一桁台を維持していましたが、2019年から活動期に入り、2023年には劇的な増加を見せ、その年の承認数は23件に達しました。
過去6年間でFDA GRAS認証を取得したプロバイオティクスの数は、それまでの総数の70%にものぼります。このデータは、GRAS認証が既に高速化していることを直接的に示しており、関連企業が米国市場への参入を考えているのであれば、今はまさに良い機会かもしれません。
多種多様なプロバイオティクスの種類
FDA GRAS認証数の急速な増加に伴い、プロバイオティクスの種類も日々豊富になっています。
REACH24Hは、現在FDA GRAS認証を取得しているプロバイオティクスを分類し、統計を行いました:
属 (Genus) | 物種/亜種 | 菌株数 | 菌株番号 |
ビフィズス菌属 (Bifidobacterium) (26) | animalis subsp. lactis | 8 | IDCC 4301, AD011, UABIa-12, BB-12, R0421, Bf-6, HN019, Bi-07 |
longum subsp. infantis | 5 | LMG 11588, M-63, ATCC SD 6720, DSM 33361,R0033 |
breve | 4 | DSM 33444, KCTC 12201BP, MCC1274, M-16V |
bifidum | 4 | NITE BP-31, KCTC 12199BP, BGN4,R0071 |
longum | 2 | BORI, BB536 |
lactis | 2 | KCTC 11904BP, Bb12 |
infantis | 1 | KCTC 11859BP |
ラクトバチルス属 (Lactobacillus) (21) | acidophilus | 4 | KCTC 11906BP, DDS-1, La-14, NCFM |
rhamnosus | 4 | CGMCC 21225, KCTC 12202BP, DSM 33156, HN001 |
reuteri | 2 | NCIMB 30242, DSM 17938 |
paracasei | 2 | F19, F-19e |
fermentum | 2 | LfQi6, CECT5716 |
plantarum | 1 | Lp-115 |
johnsonii | 1 | ATCC PTA-124205 |
helveticus | 1 | R0052 |
gasseri | 1 | NCIMB 30370 |
casei | 1 | Shirota |
ラクチプランティバチルス属 (Lactiplantibacillus) (10) | plantarum | 10 | DSM 23881, ATCC-202195, NCIMB 30562, MCC 0537, KCTC 10782BP, ECGC 13110402, 299v, CECT 7527/7528/7529 |
バチラス属 (Bacillus) (8) | subtilis | 6 | NRRL 68053, ATCC BS50, R0179, ATCC SD-7280, SG188, DE111 |
coagulans | 2 | GBI-30, 6086(不活化) |
レンサ球菌属 (Streptococcus) (4) | salivarius | 3 | DB-B5, M18, K12 |
thermophilus | 1 | KCTC 11870BP |
ラクチカゼイバチルス属 (Lacticaseibacillus) (4) | casei | 2 | KCTC 12398BP, subsp. paracasei Lpc-37 |
rhamnosus | 1 | IDCC 3201 |
casei subsp. rhamnosus | 1 | GG |
ワイセラ属 (Weissella) (1) | cibaria | 1 | CMU |
クロストリジウム属 (Clostridium) (1) | tyrobutyricum | 1 | ASM#19 (熱不活化) |
ラクトコッカス属(Lactococcus) (1) | lactis | 1 | KCTC 11865BP |
バクテロイデス属 (Bacteroides) (1) | xylanisolvens | 1 | DSM 23964 |
アナエロブチリクム属 (Anaerobutyricum) (1) | soehngenii | 1 | CH106 |
この統計結果から、以下の点が明らかになります:
現在FDA GRAS認証を取得している主要なプロバイオティクス菌株は、ビフィズス菌属 (Bifidobacterium) (26種)、ラクトバチルス属 (Lactobacillus) (21種)、ラクチプランティバチルス属 (Lactiplantibacillus) (10種)、およびバチラス属 (Bacillus) (8種)に高度に集中しています。この四つの菌属で合計65種の菌株が承認されており、その総数は全体の83%にも上ります。伝統的なプロバイオティクス菌種が、産業応用において相変わらず主導的な地位を占めていることがわかります。
しかし、注目すべきのは、微生物研究技術の進歩と市場の多様なニーズにより、承認されたプロバイオティクス菌種の範囲が急速に拡大していることです。
現在、プロバイオティクスのFDA GRAS認証リストには、レンサ球菌属、ワイセラ属、クロストリジウム属、バクテロイデス属、アナエロブチリクム属といった新しい菌種がようになっています。これらの新しい菌種は、しばしば独自の代謝特性を持ち、企業がより差別化された製品を開発相次ぎに掲載されました。これらの新しい菌種は、しばしば独自の代謝特性を持ち、企業がより差別化された製品を開発するのに役立つ可能性があります。
この現象は、世界のプロバイオティクス市場の熱気が継続的に高まっていることも示しています。
GRAS認証を取得したプロバイオティクスの応用シーン
食品市場において、プロバイオティクスは様々な種類の食品に広く取り入れられています。
REACH24Hは、現在FDA GRAS認証を受けているプロバイオティクスの想定される製品タイプについて統計を行いました。
用途分類 |
属 (Genus)
| 菌株番号 |
1. 乳幼児用調製粉乳 | ビフィズス菌属 (Bifidobacterium) | B. animalis subsp. lactis IDCC 4301, B. animalis subsp. lactis UABLa-12, B. animalis subsp. lactis strain BB-12, B. breve strain KCTC 12201BP, B. infantis strain KCTC 11859BP, B. lactis strain KCTC 11904BP, B. lactis strain Bb12, B. longum subsp. infantis strain ATCC SD 6720, B. longum subsp. infantis M-63, B. longum subsp. infantis DSM 33361, B. longum strain KCTC 12200BP |
ラクトバチルス属 (Lactobacillus) | L. acidophilus La-14, L. rhamnosus DSM 33156 |
ラクチプランティバチルス属 (Lactiplantibacillu) | L. plantarum ATCC-202195 |
レンサ球菌属 (Streptococcus) | S. thermophilus Th4 |
2. 乳幼児向け食品 (調製粉乳以外) | ビフィズス菌属 (Bifidobacterium) | B. animalis subsp. lactis strain AD011, B. breve strain KCTC 12201BP, B. longum subsp. infantis M-63 |
クロストリジウム属 (Clostridium) | Heat-killed C. tyrobutyricum strain ASM#19 (熱不活化) |
ラクトバチルス属 (Lactobacillus) | L. fermentum CECT5716, L. plantarum strain 299v |
3. 乳製品 | バチラス属 (Bacillus) | B. subtilis NRRL 68053, B. subtilis ATCC BS50 PTA-127287, B. subtilis strain R0179 |
ビフィズス菌属 (Bifidobacterium) | B. animalis subsp. lactis strains HN019, Bi-07, Bi-04, B420, B. breve DSM 33444, B. longum subsp. infantis strain LMG 11588 |
ラクチカゼイバチルス属 (Lacticaseibacillus) | L. casei subsp. paracasei Lpc-37 |
ラクトバチルス属 (Lactobacillus) | L. acidophilus DDS-1, L. fermentum LfQi6 |
ラクチプランティバチルス属 (Lactiplantibacillus) | L. plantarum strain CECT 7527, CECT 7528, and CECT 7529 |
4. 飲料 | バチラス属 (Bacillus) | B. subtilis NRRL 68053, B. subtilis ATCC BS50 PTA-127287 |
ビフィズス菌属 (Bifidobacterium) | B. breve DSM 33444, B. longum BORI |
ラクトバチルス属 (Lactobacillus) | L. rhamnosus CGMCC 21225 |
アナエロブチリクム属 (Anaerobutyricum) | A. soehngenii CH106 |
5. 穀物、焼き菓子、パンなど | バチラス属 (Bacillus) | B. subtilis NRRL 68053, B. subtilis strain R0179, Inactivated B. coagulans GBI-30, 6086 (不活化) |
ビフィズス菌属 (Bifidobacterium) | B. breve DSM 33444 |
ラクトバチルス属 (Lactobacillus) | L. rhamnosus CGMCC 21225 |
レンサ球菌属 (Streptococcus) | S. salivarius M18 |
6. スナック、キャンディ、ガムなど | バチラス属 (Bacillus) | B. subtilis ATCC BS50 PTA-127287, B. subtilis strain R0179 |
ビフィズス菌属 (Bifidobacterium) | B. breve DSM 33444 |
ラクトバチルス属 (Lactobacillus) | L. rhamnosus CGMCC 21225 |
レンサ球菌属 (Streptococcus) | S. salivarius DB-B5 |
ワイセラ属 (Weissella) | W. cibaria CMU |
7. 栄養補助食品・サプリメント | バチラス属 (Bacillus) | B. subtilis ATCC BS50 PTA-127287 |
ビフィズス菌属 (Bifidobacterium) | B. longum BORI |
ラクトバチルス属 (Lactobacillus) | L. reuteri strain DSM 17938 |
アナエロブチリクム属 (Anaerobutyricum) | A. soehngenii CH106 |
8. 一般食品・一般原料 | バチラス属 (Bacillus) | B. subtilis DE111 B. subtilis ATCC SD-7280 |
ビフィズス菌属 (Bifidobacterium) | B. bifidum BGN4 |
ラクトバチルス属 (Lactobacillus) | L. casei strain Shirota, L. rhamnosus HN001 |
ラクチプランティバチルス属 (Lactiplantibacillus) | L. plantarum DSM 23881, L. plantarum strain MCC 0537 |
ラクトコッカス属 (Lactococcus) | L. lactis strain KCTC 11865BP |
統計の結果のから、以下のことがわかります:
乳幼児向け食品のような特定の分野から、乳製品や飲料のような大衆消費市場まで、また穀物、焼き菓子、パンなどの主食分野から、スナック、キャンディ、ガムなどの嗜好品、さらには栄養補助食品やサプリメントに至るまで、プロバイオティクスは食品製品のあらゆる品目に完全に浸透しています。
製品にFDA GRAS認証済みのプロバイオティクスを添加することで、食品に独自の健康特性を付与し、企業が同質化した市場で際立つのに役立ちます。
プロバイオティクスのGRAS認証申請方法
理論的には、どの機関や個人でも以下のいずれかの方法でGRAS認証を申請できます。
1. 自社による適合声明GRAS (Self-affirmed GRAS)
即ちSelf-affirmed GRAS、資格のある専門家グループによる評価と署名を得ることで、FDAに通知しないGRAS評価資料を作成する方法です。この情報は外部には公開されません。
2. FDA GRAS (FDA notified GRAS)
即ちFDA notified GRAS、GRAS評価資料を作成した後、FDAに通知し、FDAの専門家による評価を受け、FDAから肯定的な承認を得る必要があります。
注意すべきのは、FDA notified GRASでは、評価資料の中に自社による適合声明GRASの専門家グループの意見や結論を含める必要があります。
つまり、Self-affirmed GRASを取得すれば、そのプロバイオティクスを米国で販売できます。しかし、FDA GRASを取得する方が、市場でのプロモーションにおいて有利ですが、より長い期間が必要です。企業は自身の市場計画に基づいて選択することができます。