企業3社に対して、TSCA試験命令
2023年08月15日、米国環境保護庁(EPA)は、パーフルオロアルキルおよびポリフルオロアルキル物質(PFAS)国家試験戦略の下で、PFASの試験を要求する3番目の有害物質管理法(TSCA)試験命令を発行しました。企業3社に対して、商品名GenXでも知られているHFPO-DAFの試験を実施し、結果を提出するように命じています。
背景
パーフルオロアルキルおよびポリフルオロアルキル物質(per- and polyfluoroalkyl substances、PFAS、ピーファス)は人工的に作られた有機フッ素化合物の総称で、現在4,700種以上あると言われています。物質によって様々な性質を持っていて、例えば、熱に強い、水や油を弾く、不燃性などの特徴があります。これら性質を利用し、身近なところでは、焦げ付きにくいフライパンの表面処理剤、自動車のコーティング剤、消火器に含まれている消火剤などに使用されています。物質として安定で、自然界で分解されることがほとんどないことから、海や土壌に堆積し残存し続けます。近年、この物質が、人体もしくは環境に有害であると報告がされており、世界的な環境問題として注目を集めています。米国環境保護庁(U.S. Environmental Protection Agency、EPA)の化学物質安全汚染防止局のミハル・フリードホフ副局長も、「どのPFASが人間の健康に害をもたらす可能性と危険性について、私たちはまだ十分に知識があるわけではない」と述べ、PFASの人間の健康と環境への影響をより深く理解し、対処するために、必要な措置を講じるには、PFASに関するデータを迅速に収集する必要がある。」と考えています。
2,3,3,3-テトラフルオロ-2-(ヘプタフルオロプロポキシ)プロパノイルフルオリド(2,3,3,3-Tetrafluoro-2-(heptafluoropropoxy)propanoyl fluoride、HFPO-DAF)は、化学物質ヘキサフルオロプロピレンオキシドダイマー酸(Hexafluoropropylene Oxide Dimer Acid、(HFPO-DA))の製造に使用され、商品名GenXでも知られています。HFPO-DAは、焦げ付き防止コーティング、防汚剤、その他の消費者向けもしくは工業製品の製造において、使用されています。近年では、このHFPO-DAFが、過去に最も使用されてきたPFASの1つで現在は各国でその有害性のために使用が制限されているパーフルオロアルキル化合物PFOAの代替物質として、広く使用されています。TSCA化学情報報告規則に基づいた報告によると、毎年1万ポンド以上のHFPO-DAFが製造されています 。
現在のところ、EPAは、既存のハザードおよび曝露に関する情報を調査し、HFPO-DAFが人間の健康または環境に害を与える可能性があると考えています。2023年3月、EPAは飲料水中のHFPO-DAとその塩、異性体、およびHFPO-DAFなど6つのPFASに対する規制を発表しました。EPAは、HFPO-DAFが目や皮膚などの臓器の損傷や癌を誘導する事、労働者がHFPO-DAFにさらされる可能性がある事もすでに指摘しています。
注目すべき内容
2023年08月15日、EPAは、ケマーズ(Chemours FC LLC)社、E.I.デュポン・ド・ヌムール(E. I. du Pont de Nemours and Company)社、および3M社の企業3社に対し、有機化学品製造の過程で反応物として使用されるHFPO-DAFの試験を実施し、結果を提出するよう命じました。この試験は、HFPO-DAFの人間の健康への影響を理解し、HFPO-DAFと構造的が類似しPFASの同じ試験戦略の対象となる残り数十のPFASの影響を今後予測するために、PFASに関する情報を多く集めることが目的です。
試験命令の対象となる3社は、物理化学的特性および吸入後の人間の健康への影響の試験を含む、命令に記載されている試験を今後実施するか、EPAの命令内容を満たす既存の情報をEPAに提供するか、のどちらかを選択しなければいけません。今回の場合、試験要件が複雑である事、試験を行う3社の経済的負担が少なくない事から、試験過程の透明性を向上させながら経済的な負担が少なくなるように、EPAはこの企業3社に試験を共同実施することを薦めています。また、今回TSCA規則が要求している段階的な試験過程が採用されます。つまり、この試験では、まずこの3社が命令の発効日から446日以内に第1層試験の結果をEPAに提出し、その後次の追加試験の有無や内容が通知されるという試験過程を踏みます。
参考情報
EPA、化学製造されているPFASの国家試験戦略の下、3番目の試験を命令する
PFAS国家試験戦略における試験命令とは
現在EPAは、PFAS国家試験戦略を立て、構造、物理化学的特性、および既存の毒性データの類似性の観点から、PFAS種を細かく分類しようと試みています。この目標のため、最近、EPAは、毒性データが不足しているPFASについて試験命令を発行しています。1つ目は、市販の消火フォームに使用されるPFASである6:2フルオロテロマースルホンアミドベタイン、2つ目にプラスチックの製造に使用されるPFASであるHFPOについて試験命令が出されています。今回で3つ目となるEPAの試験命令により、PFAS国家試験戦略をさらに発展させ、PFASの分類への理解を深め、毒性のあるもしくは曝露されやすいPFASの情報を得ることを目標としています。
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