中国 フェンタニル関連物質に対して厳格な管理を実行
2025-03-27

 フェンタニルは、主に慢性疼痛または術後の患者において激しい痛みを緩和するために使用される強力な合成オピオイドです。致死量はわずか2mgのため、取扱いには細心の注意が必要です。しかし、多くの場合フェンタニルは他の違法薬物と混合され、薬物使用者は知らず知らずのうちに過剰摂取となるケースが多くあります。これによる死亡者数が驚くほど増加しています。米疾病予防管理センター(CDC)は、2023年にフェンタニルを含む混合薬物の摂取により米国内で死亡したのは74,000人以上とするデータを公表しました。中国がフェンタニル前駆体の主要な供給源であるとの考えを示した米政府は、中国・メキシコ・カナダに対して追加課税を課し、これらの国が米国への薬物の流入を防ぐよう圧力をかけています。

 これに対し、中国外務省の林剣報道官は記者会見で、「フェンタニル問題の根源は米国内部にある。米国がフェンタニル問題を口実に中国からの輸入品に追加で関税をかけることは的外れだ」と指摘しました。中国国務院報道弁公室は2025年3月4日、「中国のフェンタニル関連物質管理ー中国の貢献」白書を発表しました。この白書を通じて、中国のフェンタニル関連物質の管理に関する立場、政策や進捗状況に対する理解がより深まることを目指しています。

 同白書は、フェンタニル関連物質とその前駆化学物質の厳格な管理について国際協力の強化へのコミットメントを強調しています。また、この中で中国はフェンタニル問題への対応において、米国を含む関係国との綿密な連携を進め、顕著な成果を上げてきたとしています。最近、中国国家麻薬管理委員会(NNCC)の事務局の当局者は白書に関する声明を発表し、「中国はフェンタニル関連物質及びその前駆化学物質に関連する犯罪に対する法執行の厳格化をしてきた。フェンタニル関連物質に関する包括的な取締りを実施して以来、これらの物質を密輸したり国際的に販売したりする状況も発見されていない」と強調しました。

 以下は、中国のフェンタニル関連管理に関する白書のポイントをまとめたものです。

法的根拠と規制の施行状況

 規制上、中国は薬物統制に関する複数の国際条約に基づく義務を積極的に履行し、反薬物法システムを確立・改善します。具体的には、フェンタニル関連物質及びその前駆化学物質に対して厳格な管理が実施され、国連によって指定されたフェンタニル関連物質が国内の規制対象となります(下表をご参照)。

法的根拠管理対象リスト対象となるフェンタニル類物質管理措置
中華人民共和国医薬品管理法
  • 麻薬および精神薬品管理条例

  • 非薬用類麻薬および精神薬品列管办法

麻薬のリスト2013年時点:13種類のフェンタニル類物質製造、販売、使用、輸出を厳しく管理。
非薬用類麻薬および精神薬品管理品種増補目録
  • 2015年10月:アセチルフェンタニル及びその他の5種類のフェンタニル類物質

  • 2017年3月:カルフェンタニル、フラニルフェンタニル、アクリルフェンタニル、バレリルフェンタニル

  • 2018年9月:テトラヒドロフラニルフェンタニル及び4-フルオロイソブチルフェンタニル

  • 2019年5月1日以降:次に掲げる1つ以上の項を改正することにより、フェンタニルに構造が類似する物質は、フェンタニル類物質として同目録に追加予定。

  1. N‑プロピオニル基を他のアシル基に置き換え;

  2. 芳香族単環中または芳香族単環上でさらに置換されているか否かにかかわらず、N-フェニル基を任意の芳香族単環に置き換え;

  3. ピペリジン環中をアルキル基、アルケニル基、アルコキシル基、エステル基、エーテル基、ハイフロキシル基、ハロ基、ハロアルキル基、アミノ基またはニトロ基に置き換え;

  4. フェネチル基を水素原子以外の基に置き換え。

製造、販売、輸送、使用、保管、輸出入を禁止。
易制毒(前駆体)化学品管理条例易制毒化学品の分類及び品種目録2018年2月1日:4-アニリノ-N-フェネチルピペリジン(4-ANPP)とN-フェネチル-4-ピペリドン(NPP)が第1類の易制毒化学品に指定。製造、輸出入、販売、購入、輸送前に、承認または許可を取得することが必要。
2014年8月2日:N-フェニル-4-ピペリジンアミン(4-AP)、tert-ブチル 4-(フェニルアミノ)ピペリジン-1-カルボキシレート(1-boc-4-AP)、N-フェニル-N-(ピペリジン-4-イル)プロピオンアミド(ノルフェンタニル)が第2類の易制毒化学品に指定。
  • 輸入、輸出、購入、輸送前に、承認または許可を取得することが必要;

  • 製造、販売の開始から30日以内に、製造情報(種類及び量)や取引情報(種類、量及び主な仕向地)などを応急管理部に報告することが必要。

 2019年5月までに、中国は合計25種類のフェンタニル関連物質をそれぞれ「麻薬のリスト」、「非薬用類麻薬および精神薬品管理品種増補目録」、「易制毒化学品の分類及び品種目録」に追加しました。2019年4月1日、中国は「関連物質」の概念を導入し、フェンタニル関連物質の科学的に正しい法的定義を示し、管理目録への追加が必要なすべての種類を網羅しました。この概念が2019年5月1日に発効したことをうけ、中国は世界に先駆けてすべてのフェンタニル関連物質を規制に基づいて分類し、世界の薬物問題のガバナンスに参加するというコミットメントを示しています。

 中国では、2024年より前に国連の管理物質リストに収載されている5種類のフェンタニル前駆物質が対象として、許可・承認の要件が厳格になり、国際検証システムも導入されています。これらの前駆物質を管理して以来、中国企業による輸出許可申請は、記録されていません。特に注目すべきは、現時点で4-ピペリドンとtert-ブチル4-オキソピペリジン-1-カルボキシレート(1-boc-4-ピペリドン)を管理対象リストに追加することを検討していることです。関連作業が進行中になっています。

モニタリングと監視

 中国は、5の地域支部(5)及び多数の省・市レベルの実験室(N)でサポートされる国家麻薬実験室(1)を中心として、「1+5+N」の麻薬実験室ネットワークを構築します。このネットワークは、フェンタニル関連物質の迅速な検出、正確な同定、広範囲な監視、科学的根拠に基づく管理のための包括的な技術サポートを提供します。これにより、中国の公安機関はフェンタニル関連物質に関する犯罪に対して、規制法に基づき強力な措置を講じています。2019年5月に取締りを包括的に実施して以来、中国ではフェンタニル関連物質を海外に密輸・密売するケースは検出されていません。

 一方、フェンタニル関連物質及びその前駆化学物質の販売情報のオンライン上の違法アップロードをうけ、中国国家麻薬管理委員会(NNCC)は関連当局とともに、化学産業のオンラインプラットフォームに対して、実名での登録、投稿の承認、オンライン情報の監視、有害なコンテンツの報告などの措置を実施するよう促しました。そして公安機関は、これらの物質に関するオンライン情報を積極的に取り締まりました。2024年6月現在、14万件以上の違法な広告がブロックまたは削除され、14のオンラインプラットフォームが是正または閉鎖を命じられました。

 この白書によると、中国は引き続き国際的な薬物管理義務を履行し、積極的に国際的な薬物問題への対応を強化し、既存の国際的な薬物管理システムを堅持し、薬物問題に対処するための世界的な協力を全面的に推進することです。

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