PTB物質のデカブロモジフェニルエーテルとリン酸イソプロピルフェノール(3:1)の使用などを制限する規制案
2023年11月20日、米国環境保護庁(EPA)は、有毒で長期間環境中に残留し、体内に蓄積する化学物質への暴露からヒトと環境を保護するための規則案を発表しました。デカブロモジフェニルエーテル(decaBDE)とリン酸イソプロピルフェノール(3:1)(PIP(3:1))の2つの化学物質が対象となっています。そのため、この2つの化学物質を使用する原子力発電や半導体などの産業部門の事業者に影響が及びます。EPAはこの規制措置案の概要を説明する公開ウェビナーを2023年12月14日に開催します。また、この規則案に関する意見も募集しています。
背景・概要
米国環境保護庁(U.S. Environmental Protection Agency、EPA)は、労働者の安全保護、環境保全を目的として、原子力エネルギー、輸送、建設、農業、林業、鉱業、ライフサイエンス、半導体製造など、さまざまな産業部門の製造や販売からのの有害化学物質の放出を制限しています。その一つである、「難分解性、生物蓄積性、および有毒な(Persistent, bioaccumulative and toxic)」な化学物質は、環境や私たちの体内に長期間残留する可能性があるため、EPAがこれらの化学物質からの労働者、市民、環境保護を確実に実施することが特に重要である」と、 化学物質安全・汚染防止局(Office of Chemical Safety and Pollution Prevention)担当のEPA次官補も述べています。有害物質管理法(Toxic Substances Control Act、TSCA)に基づき、EPAは5つのPBT化学物質について、2021年1月初旬にリスク管理規則を確定していました。5つのPBT化学物質とは、デカブロモジフェニルエーテル(decaBDE)とリン酸イソプロピルフェノール(3:1)(PIP(3:1))に加えて、(2,4,6-トリス(tert-ブチル)フェノール(2,4,6-TTBP))、ヘキサクロロブタジエン(HCBD)、ペンタクロロチオフェノール(PCTP)の事です。ただし、直後の2021年3月より、バイデン・ハリス政権が発表した新たな大統領令や指針を踏まえ、EPAはこの規則がPBT化学物質からの暴露を十分に低減しているかどうか、最終規則に関連する実施上の問題点および追加または代替措置を検討すべきかどうかに関して、追加意見の募集を開始していました。
今回の規則案では、これら5つの化学物質に対する規則のうちdecaBDEとPIP(3:1)規則の改正を提案しています。一方EPAは、残りの3つの化学物質に対する現行規則の改正は、提案されていません。
注目すべき内容
デカブロモジフェニルエーテル(decaBDE)ついて
decaBDEは、原子力発電施設用のワイヤーやケーブル、航空宇宙や自動車用の交換部品を含む複数の用途に使用される難燃剤です。EPAはこれまでにも、decaBDEを含む、ポリ臭化ジフェニルエーテルとして知られている分類の難燃剤のヒトや環境への暴露を減らす取り組みを行ってきました。EPAは、decaBDEの人への暴露により、中枢神経系の発達障害や生殖障害などの悪影響があると特定もしています。このため、EPAは2021年最終規則により、一部の例外を除き、decaBDEおよびdecaBDE含有製品・物品の製造、加工、流通を禁止しています。
今回の新規則案では、2021年の禁止事項の対象ではなかったdecaBDEを取り扱ういくつかの作業において、作業者に保護具の使用を義務付けました。また、decaBDEおよびdecaBDE含有製品の製造、加工、流通からの水域への放出を禁止し、原子力発電施設用のdecaBDE含有電線・ケーブルを輸出しようとする事業者に届出を義務付けています。加えて、原子力発電施設で使用されるdecaBDE含有電線・ケーブル絶縁体の加工と商業流通の遵守期限を電線・ケーブルの耐用年数後まで延長しました。この遵守期限の延長は、原子力発電産業がdecaBDEを数多くの安全システムの運用に使用しているため、デカBDE含有ワイヤーとケーブルを代替品に移行するための準備・移行期間の位置づけです。
リン酸イソプロピルフェノール(3:1)(PIP(3:1))について
PIP (3:1)は、可塑剤、難燃剤、摩耗防止添加剤、または圧縮性防止添加剤であり、油圧作動油、潤滑油、潤滑油、グリース、各種工業用コーティング剤、接着剤、シーリング剤、およびプラスチック製品に使用されてきました。また、携帯電話、ラップトップコンピュータ、その他の電子・電気機器、輸送、建設、農業、林業、鉱業、ライフサイエンス、半導体製造などの産業・商業機器、消費財、商業製品に使用されています。PIP(3:1)は、水生植物、水生無脊椎動物、底生無脊椎動物、魚類に対して有毒であり、EPAは、生殖障害、神経学的影響、肝臓、卵巣、心臓、肺への障害などの人への悪影響も報告しています。EPAは2021年最終規則により、PIP(3:1)を含む成形品の順守期限を2024年10月まで延長していました。
今回の新規則案では、EPAは、製造装置や半導体産業で使用される一部の成形品について、適合日をさらに延長することを提案しています。また、PIP(3:1)の製造・加工時に作業者が保護具を使用することを義務付けるなど、新たな労働者保護も含まれています。加えて、2021年02月規則の禁止事項から除外されたPIP(3:1)の一部の用途を段階的に廃止することも提案しています。例えば、前回規則で禁止対象から除外された潤滑油やグリースにおけるPIP(3:1)の一部の用途が、5年間の段階的廃止の対象となっています。EPAはまた、ワイヤーハーネスや電気回路基板に使用するPIP(3:1)の加工および流通を禁止から除外することも提案しています。
参考情報
EPA、難分解性、生物蓄積性、有毒性をもつPBT物質からヒトへの暴露を防ぐ規則を提案
有害物質管理法(TSCA)とは
有害物質管理法(Toxic Substances Control Act、TSCA)は、有害な化学物質による人の健康又は環境への影響の不当なリスクを防止することを目的とし、米国連邦議会で5年間の審議を経て1976年10月11日に承認され、1977年01月01 日に発効した法律です。TSCAの対象は、農薬、食品、医薬品、化粧品及び医療機器を対象外として「特定の分子的特性を有する有機又は無機の物質」で、これら物質は米国環境保護庁(Environmental Protection Agency、EPA)が作成・保管する製造、輸入又は加工される化学物質の最新リストである「TSCAインベントリー」によって管理されています。そして、リストに含まれる物質を製造、加工、流通、利用又は処分する個人及び企業に対して適用されます。EPAは、このリストに登録される予定の新規物質の届出に対応してリスク評価を審査する一方で、リストに登録されている既存物質の内容・数量報告のリスク評価を審査しています。
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