米国|PFASを特別懸念化学物質リストに追加し、リストに適用される少量排出免除制度を廃止へ
2023-12-07

PFASもTRI報告が必要-少量免除は廃止

2023年10月31日、米国連邦官報にて、PFASを「特別懸念化学物質リスト」に追加し、リストに適用される少量排出免除制度(デミニマスルール)を廃止する内容の改正規則が公布されました。規則は11月30日より発効し、最初の報告は2025年07月01日までが期限となっています。

概要


■ EPAは、事業者が州に報告した環境への排出量をまとめて、環境汚染が懸念される化学物質であるPFASの米国での排出全体量を把握する義務がある。しかし、計算方法が複雑なデミニマス制度と下限値が高いフォームA制度が、この全体量の把握を困難なものにしているという認識がEPAにあった。


■ そこで、EPAは現在までPFAS排出量が下限値の500ポンド以下であるためフォームRでの報告義務がなかった事業者を対象に、100ポンド以上の排出があればフォームRでの報告を必要とさせるため、PFASの特別懸念化学物質リスト入りを求め、また、PFASを含む環境汚染が懸念される化学物質のリストであるTRI制度においてはデミニマス制度を取り入れないことも提案していた。

■ これにより、完成製品の全体量の中にわずか割合でもPFASが入っていた場合(PFASはコーティング剤なので多くの場合このケースに当てはまる)、それの総排出量が100ポンドを超えれば、フォームR報告する義務が事業者に生じることになる。


■ 2019年国防権限法(NADD)では、EPAは毎年01月01日にその年に議論のあった化学物質をTRIに掲載する。今回の変更決定により、2024年01月01日より、PFASとされている化学物質がTRIの特別懸念化学物質リストに収載される。

■ 一方、今回EPAは、PFASに含まれる化学物質を変更したわけではなく、TRIリストに追加されたPFASの完全なリストは、「TRIプログラム」で調べることができる。

改正箇所

40 CFR 
Part 372 TRI報告:地域の知る権利

372.22 ※改正 法令番号調整
372.25 ※改正 法令番号調整
372.28 特別懸念化学物質の下限値設定リスト
372.29 ※削除
372.30 ※削除
372.38 ※改正 法令番号調整
372.45 有毒化学品についての届出

参考情報

■ 連邦官報 88 FR 74360

特別懸念化学物質(Chemicals of Special Concern)の下限値設定リストとは:


緊急計画及び地域の知る権利に関する法律 (Emergency Planning and Community Right-to-Know Act of 1986, EPCRA )のセクション313は、有害化学物質排出目録制度(Toxic Release Inventory、TRI制度)ともいい、事業者が取り扱う化学物質の種別、貯蔵や保管、環境への排出量や廃棄物管理量(リサイクル量を含む)などの情報公開を義務付ける制度のことです。

事業者が汚染物質の管理量の全体を情報として公開することで地域住民と環境汚染についてコミュニケーションを図る制度となっており、事業者の自主的な環境負荷の低減により地域住民の信頼も得られるなど、最終的に事業者の企業コストの削減につながるといった効果を上げています。


ただし、このTRI制度では、デミニマスルール(またはデミニマス(de minimis)免除ともいう)という「完成製品の全体量の中で、今回の場合TRIとされている特定の原材料がごくわずかな割合しか含まれていない場合、完成製品の性質を変更して報告する義務から免除する救済ルール」も適用されています。

この免除が適用されていない場合、通常事業者は排出量500ポンド(約227キログラム)以上でフォームA書類を使って所属する州に報告する義務が出てきます。一方、TRI内には特別懸念化学物質(Chemicals of Special Concern)リストという項目もあります。

その性質から残留性生物蓄積毒性(persistent, bioaccumulative and toxic 、PBT)化学物質と呼ばれる化学物質が含まれ、特別懸念化学物質として登録されると下限値設定が500ポンドから10もしくは100ポンド(約4.5から45キログラム)となり、それ以上の排出で管理状況をより詳しく記載しなければならないフォームRでの報告が義務付けされます。


PFAS(パーフルオロアルキルおよびポリフルオロアルキル物質)とは:


PFASは、環境中に自然に存在しない合成有機化合物です。PFASは、水素原子が部分的または完全にフッ素原子に置換されたアルキル炭素鎖を含み環境中で非常に長く持続します。

PFASの中でも残存性が長いPFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)とPFOA(ペルフルオロオクタン酸)は熱、油、汚れ、グリース、水などに強いとされて何十年も主に仕上げのコーティング剤で使われており、野生生物やヒト血清中で検出されたため既にEU含む各国などで規制が強化されています。一方、米国内ではPFAS内の他の物質もPFOSやPFASの代替品として使われている背景がありました。

しかし、2019年に法制化された2019年国防権限法(National Defense Authorization Act 2019、NADD)で、ケミカルアブストラクトサービス登録番号(CASRN)をもつ14の化学物質がPFASに追加され(NADDのセクション7321(b)に記載)、この追加を2020年6月22日にEPAがTRIリストを更新・反映する(85 FR 37354)(FRL-10008-09)など、米国内でも排出制限を取り締まる規制が増えてきています。


本記事の著作権は、株式会社先読に帰属します。なお、記事の相互掲載について、当社と株式会社先読との間で合意がなされています。

転載元:株式会社先読 (URL: https://www.sakiyomi.co.jp/)

規制に関する詳細については、お問い合わせください。
お問い合わせフォーム